宇宙を覆う“メガ”ニュートリノ

2009.06.02
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
毎日、太陽から発したニュートリノと呼ばれる何十億もの素粒子が地球に届く。しかしニュートリノは、質量が極めて小さく、電荷を持たず、光速に近い速度で動くため、検出するのは非常に難しい(写真は、ミシガン州にあるニュートリノ検出用の水槽で修理作業にあたるダイバー)。

 2009年5月に、ニュートリノの質量を計測しようとしていた天文学者が、既知の最古のニュートリノは宇宙の膨張によって引っ張られて拡大し、各粒子が何千もの銀河よりも大きな空間を包含している可能性があることを発見した。

Photograph by Joe Stancampiano/NGS
 最も古いニュートリノは、何千もの銀河より大きな空間を包含しているかもしれないことが、新しいシミュレーションにより示唆された。

 既に知られているように、ニュートリノは核反応または放射性崩壊によって生成される。量子力学では、ニュートリノのような素粒子の“サイズ”は、存在可能な位置の範囲によってあいまいに定義される。素粒子は、原子などの何かと相互作用するときにのみ検出することができ、その範囲は相互作用時に時空内の1つの点に崩壊する。 最近生成されたニュートリノについては、存在しうる範囲は極めて小さい。しかし、宇宙の誕生以来、約137億年間にわたって“残存”するニュートリノは、宇宙の膨張によって引き伸ばされ、存在可能範囲も拡張を続けてきたという。

 研究の共著者であるカリフォルニア大学サンディエゴ校の天体物理学者ジョージ・フラー氏によると、「個々のニュートリノの範囲は100億光年ほどにまで拡大しているかもしれない。これは、観測可能な宇宙の最大サイズにほぼ匹敵する」という。

 ニュートリノは電荷を持たず、その質量は小さすぎるために正確に計測することができない。これは、光速に近い速度で進むニュートリノが、ほとんど邪魔されずに通常の物質を通過できることを意味する。

 地球に影響を及ぼすニュートリノの大半は太陽から来る。平均的な人間の体を、1秒間に何十億もの太陽ニュートリノが通過している。

 フラー氏と彼の学生チャド・キシモト氏は、ニュートリノの質量を計算しようしていたときに、宇宙の膨張に伴って、時空構造が原始のニュートリノを引っ張り、素粒子の範囲を膨大な大きさに拡張していったことに気づいた。

 このような広大な範囲は、ニュートリノが宇宙のほとんどの物質を通過した後でも、そのまま存在している可能性がある。

 まだ解決できない問題は、重力(例えば銀河全体からの引力)が、巨大な“メガ”ニュートリノを単一の位置まで崩壊させうるかどうかだという。

「量子力学は、最小の目盛りで宇宙を記述することを目的としてきた。そしていま私たちは、量子力学で宇宙で最大の目盛りにどうやって取り組むかを論じている。これは、いままで探求されていなかった物理学の未知の分野だ」とキシモト氏は言う。

 今回の研究には参加していないカリフォルニア大学バークレー校の物理学者エイドリアン・リー氏は、「重力はまだ我々の理解が及ばない真のフロンティアだ。このようなニュートリノは、重力についての理解を掘り下げる道を拓いてくれる可能性がある」と話している。

 しかし、こうした疑問に答えるには、結局のところ今回の研究で予測されたメガニュートリノを検出しなければならない。

 メガニュートリノは宇宙空間では極めてありふれた存在のはずだが、いまのところ残存ニュートリノのエネルギーは、太陽が生成するニュートリノのエネルギーの100億分の1ほどしかない。「これは、少なくとも地球上に建設できる設備では、残存ニュートリノを直接検出することがほとんど不可能ということだ」とフラー氏は言う。

 しかし、これほど多くの残存ニュートリノが存在するという事実は同時に、残存ニュートリノがある程度の引力を発揮しているだろうということも意味する。「宇宙全体としての振る舞い方に影響を与えるのに十分な程度には」と、同氏は付け加えた。

 たとえば、暗黒物質はこれまで直接には観測されていないが、天体物理学者は衝突する銀河に対する影響に基づいて暗黒物質が存在する証拠を見つけている。「だから、宇宙の構造体の膨張を観測していけば、残存ニュートリノをその重力によって間接的に見つけることができるかもしれない」とフラーは話した。

 今回の研究は、5月22日発行の「Physical Review Letters」誌で発表された。

Photograph by Joe Stancampiano/NGS

文=Charles Q. Choi

  • このエントリーをはてなブックマークに追加