ウバザメの意外な避寒地を発見

2009.05.07
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体長10メートルにまで成長するウバザメは、その大きな口を開けて海水を飲み込み、プランクトンをエラで濾過して食べている。

 アメリカのニューイングランド沖に生息するウバザメは冬の間どこへ消えてしまうのか。科学者たちを長年悩ませてきたこの謎が、2009年5月になってようやく解明されたようだ。このサメは、冬になると熱帯の深海まで壮大な回遊を行っていた。

Photograph by Nick Caloyianis/NGS
 世界で2番目に大きい魚を見失うことなどあるのだろうか。

 実は何十年もの間、科学者たちは冬が来るたびにそのような現実に直面してきた。ウバザメというサメは不思議な魚で、冬になると大西洋や太平洋の冷たい海域から姿を消してしまうのである。 しかし現在は、そのようなウバザメの謎の行動に困惑させられてきた専門家たちも多少の手掛かりをつかんでいる。アメリカ、ニューイングランド地方の沖合に生息する巨大なウバザメは、冬になると熱帯の海域へ移動していることが判明した。

 このサメは温帯の海にだけ生息するものと以前まで考えられていたが、今回発表された研究により、最大で体長10メートルにまで成長するこのサメが、熱帯域にある深海の避寒地まで大規模な回遊をしていることが明らかになったのだ。

 研究チームはウバザメが冬になって姿を消してしまう前に、ニューイングランド沖に生息する25匹の個体に衛星発信機を取り付けた。使われた発信機は、特定の時間が来ると自動的に外れて水面に浮かび上がるタイプのものである。

 ウバザメたちは水深200~1000メートルを泳ぎ、一部の個体はフロリダに落ち着いたが、ほかはさらに南下を続け、数千キロを移動する個体もいた。マサチューセッツ州海洋漁業局(MDMF)に所属する海洋生物学者であり、今回の研究に参加したグレゴリー・スコマル氏は、「発信機がカリブ海で浮かび上がったときには本当に驚いた」と話している。

 しかし驚きはそれだけにとどまらない。「Current Biology」誌のオンライン版に5月7日付で掲載された研究論文によると、1匹のウバザメは赤道を越えてブラジルのアマゾン川河口まで回遊し、そこで1カ月を過ごしたというのである。

 この巨大なサメが回遊を行う理由はまだ解明されていない。「変温動物であるサメは、おそらくもっと暖かく、主食のプランクトンが豊富な海域を求めてアメリカ大西洋岸のメイン湾を離れるのだろう。しかしフロリダ北部の海にもプランクトンは豊富に存在するのに、あえてブラジルまで移動する理由がわからない」とスコマル氏は解説する。

 1つ考えられるのは、どこかに繁殖地があり、そこを目指しているのではないかということだ。「これまでウバザメは幼魚は発見されたことがない。このサメの繁殖地がどこなのかはいまだにわかっていない」とスコマル氏は言う。

 マリン・コンサベーション・インターナショナル(Marine Conservation International)の生物学者で、ウバザメが大西洋を東から西へ渡るところを追跡した2007年の研究活動にも参加しているモヴィス・ゴア氏は次のように述べる。「ウバザメの回遊を追跡したことで、個体群の構造が詳しく解明され始めた」。

 例えば、「これまでに発見されている個体群はそれぞれ別々の海域に根ざした異なるグループであると考えられてきたが、追跡データに基づいて考えると実際はそうではなく、全海洋にまたがるほど大きな1つの個体群が形成されているのかもしれない」とスコマル氏も推測している。

 ウバザメは、国際自然保護連合(IUCN)では絶滅危惧種に指定されている。この希少な魚についてスコマル氏は、「ある特定の海域に生息するウバザメになんらかの影響があれば、それが個体群全体にまで影響する可能性がある」と、その生存にかかわる問題点を指摘している。ただし同氏は、今回の新しい発見によりウバザメが直面している問題は意外と早く解決するかもしれないとも考えている。

 2009年の8月には、「救え、われらの命の海を」基金(Save Our Seas Foundation)の主催で、世界中のウバザメ研究家が一堂に会する学会が開かれることになっている。「世界中のウバザメが直面している問題を解決できる最適なプログラムを作り上げたい」と、前出のゴア氏は意欲的な姿勢を示している。

Photograph by Nick Caloyianis/NGS

文=Helen Scales

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