最古の恐竜のタンパク質を発見
2009.05.01
タンパク質のアミノ酸配列を分析したハーバード・メディカルスクールのジョン・アサラ氏は、「たった一度の奇跡ではなかった」と感想を述べている。
発見されたタンパク質は、砂岩の中に閉じ込められていたハドロサウルスの大腿骨から採取された。砂岩に保護されていたことで、組織が完全には分解されなかったようだとアサラ氏は考えている。
同氏の話によると、顕微鏡を用いた事前分析の時点で、血管や細胞、コラーゲンと考えられる組織が確認されていたという。当初の推測は、タンパク質に反応する抗体を軟組織に適用することで実証された。この検査により、コラーゲンや赤血球に含まれるヘモグロビンなど、タンパク質の存在が示唆されることとなった。
ヘモグロビンの存在はまだ憶測の段階であり、5月1日発行の「Science」誌に掲載された論文では言及されていない。ヘモグロビンについては、混入物質なのではないかと一部の科学者は疑っている。
カリフォルニア大学サンディエゴ校で生命情報科学を研究しているパベル・ペブズネル氏は、「混入物質ではなく実際にヘモグロビンであるとすれば、それは血管などの結合組織が発見されたことよりはるかに大きなニュースだ」と話している。
恐竜のヘモグロビンが確認されれば、DNAからのタンパク質合成をはじめ、多くの恐竜のタンパク質を復元する道筋が開けることになる。そうなれば、『ジュラシック・パーク』のような形で恐竜が復活することもあるかもしれない。
「ヘモグロビンは現在の技術では確認が困難であり、多くのことを発表できない。ただし、混入物質ではないと思う」と、研究に参加した前出のアサラ氏は説明する。
同氏による軟組織のサンプル分析は、質量分析計を用いて行われた。質量分析計はサンプルに含まれる異なる要素の質量を計測し、科学的組成を明らかにする検査機器である。
アサラ氏は8つのコラーゲンタンパク質を発見し、そのタンパク質は現存する動物のサンプルとだけでなく、マストドン、ティラノサウルス・レックスの化石から採取したサンプルとも比較された。
調査の結果、今回の研究対象とされたハドロサウルス科に属するブラキロフォサウルス(学名:Brachylophosaurus canadensis)は、系統樹上でティラノサウルス・レックスと同じ枝に配置されることとなった。そして予想通り、ブラキロフォサウルスとティラノサウルス・レックスは両方とも、ワニやトカゲよりニワトリやダチョウに近い生物種だと判明した。
アサラ氏の研究チームは2007年、ティラノサウルス・レックスの軟組織を発見したと発表し、それが論争を巻き起こすこととなった。そのとき発見された軟組織が、実際には処理のミスで標本に混入したのではないかと一部では批判されていたのである。しかしその論争も、今回の新しい研究で部分的には終わることになるかもしれない。
前出のペブズネル氏は、ティラノサウルス・レックスのタンパク質を分析する際に用いられた手法には疑問を持っていた。しかし今回は、余計な物質が混入しないよう厳重な管理が行われ、なおかつ発見した物質を恐竜のタンパク質と断定する基準も確かであったため、その分析手法については「問題ない」としている。
Image courtesy Mary H. Schweitzer via Science