板状の石灰岩から翼竜の化石が姿を見せている。ドイツ、ミュンへンの博物館に保管されている、かなり保存状態の良い化石である。

 恐竜時代に生息していた大型翼竜は飛び上がれず、持続して飛行できなかった可能性がある。2009年4月に発表された現存する鳥類の飛行研究から、体の大きな翼竜は、飛行可能な速度で羽ばたけなかったことが示唆された。

Photograph by Jonathan Blair
 恐竜時代に生息していた巨大翼竜が、実際には飛べなかったことを示唆する新たな研究が発表された。長い間、空を飛べる動物としては史上最も重いとされてきた翼竜だが、その定説が覆される可能性が出てきた。 この研究では現存する鳥類の体重と体の大きさに基づいて計算が行われ、体重41キロ、翼開長5.1メートルを超えると、空中にとどまっていられる速度で羽ばたくことができなくなるという結論が導き出された。

 この結論から推測すると、史上最大級の飛行動物とされる大型翼竜“ケツァルコアトルス”なども、本当は飛べなかったのではないかという疑惑が浮上する。

 白亜紀末に生息していたケツァルコアトルスは、最大で体重250キロ、翼開長10メートルにまで達したと考えられている。10メートルといえば、大型バス1台分に匹敵する長さである。

「現代と環境が大幅に違わないかぎり、大型翼竜は滞空していられなかっただろう。たとえ持続飛行が可能であったとしても、その前段階の離陸が困難だ。あれほど大きな生物が地面から飛び立つのは筋肉の力だけでは難しかったのではないか」と、研究を率いた東京大学海洋研究所の佐藤克文准教授は語る。

 ナショナル ジオグラフィック協会のエマージング探検家でもある佐藤氏は、インド洋南部で、世界最大の鳥類ワタリアホウドリをはじめ、5種類の鳥類を対象とした調査を行った。この5種類はいずれも、時おり羽ばたきながら滑空を行う種とされているもので、この特徴は一般に想定されている翼竜の飛行姿にも当てはまる。

 調査では計26羽に小型の加速度計が取り付けられ、離陸から着地までの間に行われる羽ばたきの速度データが収集された。そのデータに基づいて計算した結果、さまざまに状態を変える風の中で安全に飛び続けられる“実際的な限界値”は、大型のワタリアホウドリに相当する体重10キロであったという。

 しかし、この研究結果には首をかしげる科学者もいる。.

 イギリスにあるレスター大学の古生物学者デービン・アンウィン氏は次のように話す。「今回の研究結果は翼竜には当てはまらないのではないか。それ以前に、鳥類すべてに当てはまるかどうかを考えた時点で例外が見つかる。600万年前にいたとされる巨大な鳥類アルゲンタビスのように、翼開長6メートルで空を飛べたとされている鳥類もいるからだ。さらに、見つかっている大型翼竜の化石は皆、並外れて骨壁が薄かったと推定されている。サイズのわりに体重の軽い生物だった可能性もある」。

 東京にある国立科学博物館の真鍋真主任研究員も、翼竜が現在の仮説に比べて軽かった可能性を指摘する。「あるいは、もし飛べなかったとしたら、ペンギンのように翼をフィンとして使って泳いでいたのかもしれない。もっとも、翼竜の翼は泳ぎにはあまり向かない形状だといわれているのだが」。

 佐藤氏によると、翼竜の体が重くても、がけや木の上のような高い場所から飛び立てば問題なく離陸できていた可能性はあるという。「だが、実際に長時間持続して飛行できたと仮定すると、いまよりも重力が小さかったり、大気が高密度だったり、環境的な差異があったと考えるしかない」。

 この研究に基づけば、大型翼竜はすぐに地面に墜落してしまうことになるが、衝撃的な結論にもかかわらず、古生物学者たちからの反応はさほど否定的でないものがほとんどだという。「一番の反論者は6歳になるうちの息子になりそうだ。熱烈な恐竜ファンだから」と、佐藤氏は語った。

Photograph by Jonathan Blair

文=Tony McNicol in Tokyo