ヒレ状の四肢を持たない先史時代のアザラシ(上の想像図)の化石が発見された。2009年4月に発表された研究によると、これは陸で暮らしていた鰭脚類(アザラシやアシカ、セイウチ)の祖先と現在の鰭脚類を結び付ける、初めての確かな証拠だという。カリフォルニアアシカ(下の写真)をはじめとする現在の鰭脚類は、ヒレ状の四肢を持ち、海に暮らす。

Illustration courtesy Mark A. Klingler of Carnegie Museum of Natural History (CMNH); photograph by Bates Littlehales/NGS
 アザラシは陸から海に入り、ヒレ状の四肢を持つようになったが、その進化の過程はわかっていなかった。最新の研究によると、“腕”を持つ先史時代のアザラシの化石が発見され、途切れていた進化の鎖がつながったという。 古代の北極圏では温暖化と寒冷化が極端だったために生物の進化が促進されたのではないか。陸上と淡水の両方で生活できるアザラシはその一例だと考えられる。

 新たに発見されたこの“歩くアザラシ”の化石は2000~2400万年前のもので、体長は約110センチ。陸生の哺乳類を思わせる筋肉質のどっしりした四肢と長い尾、さらに足には水かきがあった。研究者たちによると、足を引きずるように歩く現在のアザラシとは異なり、泳ぎも歩きも優雅にこなしていた可能性があるという。

 ヒレを持たないこのアザラシの外見があまり奇異なものに感じないのは、現生のカワウソに似ているからかもしれない。今回の研究を主導したナタリア・リプチンスキー氏も、「生態学的にみて、カワウソは初期の鰭脚(ききゃく)類の“現代版”ともいえる」と認めている。鰭脚類は“ヒレ状の四肢”を持つ海生哺乳類の総称で、セイウチやアザラシ、アシカなどが含まれる。

 クジラやマナティーなど多くの海生哺乳類がかつては陸で暮らしていたことは、150年前にチャールズ・ダーウィンが唱えて以来すでに定説となっている。しかし、アザラシなどの鰭脚類が陸上から水中へと進化した確かな証拠は、今回新たな化石が見つかるまで存在しなかった。

 この新たな種は「プイジラ・ダーウィニ」(Puijila darwini、イヌイットの言葉とラテン語を組み合わせた造語で“ダーウィンの若い海洋哺乳類”の意)というぴったりの名前を付けられた。「陸に暮らす祖先が存在したことはわかっているが、どのようにして完全な海洋動物になったのか?」と、カナダ自然博物館で脊椎動物を専門に古生物を研究するリプチンスキー氏は問い掛ける。「そこには形態学的な空白があった。P・ダーウィニはそれを埋めてくれる重要な化石だ」。

 鰭脚類の骨格の化石としては最も原始的なP・ダーウィニの標本は2007年、カナダの北極圏で隕石クレーターを調べている際に発見された。リプチンスキー氏らがまとめた研究報告によると、ヌナブト準州にあるデボン島の内陸で化石が見つかったことは、鰭脚類が進化の過程で淡水に暮らしていたことを示唆するものだという。

 当時、北極圏の湖や川は温暖で、P・ダーウィニの生活の場となっていた。その後、冬の間は湖が凍るようになり、アザラシの食物がなくなった。こうして、海での生活に徐々に適応していった可能性がある。

 リプチンスキー氏によると、北極圏に暮らす初期の鰭脚類の証拠が見つかったことは、この地で鰭脚類が進化したことを示しているかもしれないという。北極圏では、気候の変化が増幅されるため、進化のスピードが速かった可能性もある。動物たちは適応を余儀なくされ、それができなければ絶滅するしかなかったのだろう。

 研究結果は23日、「Nature」誌で発表される。

Illustration courtesy Mark A. Klingler of Carnegie Museum of Natural History (CMNH)

文=Brian Handwerk