古代カナンに“女王”?

2009.04.10
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古代カナンの都市国家ベト・シェメスで発見された粘土板。ここに描かれている人物は、“ライオンの女王”として知られる謎の統治者かもしれないと、2009年4月に考古学者たちが発表した。粘土板に文字は記されていないが、髪形やハスの花を持っていることから女性と推測される。

Photograph courtesy Dr. Zvi Lederman, Tel Beth-Shemesh Excavations
 古代カナンの一都市を治めた謎の“女王”の起源がついに明らかになりそうだ。2008年夏、後にイスラエルとなったカナンの都市国家ベト・シェメスの遺跡で粘土板が発掘された。“ライオンの女王”(Mistress of the Lionesses)として知られる統治者が描かれている出土品は、これが初めてのものかもしれないという。 粘土板はたばこの箱より少し小さく、キルトのようなひざ丈のスカートをはき、胸をあらわにした人物が刻まれている。髪は短く、曲げた両腕で茎の長いハスの花を1本ずつ持ち上げている。ネブ(neb)と呼ばれるかごの上に立っており、これは古代エジプトでは統治者や神を表す。

「粘土板に文字は記されていない。しかし、髪形やハスの花を持っていることから女性と推測される」と、発見者であるテルアビブ大学の考古学者シュロモ・ブニモビッツ氏とズビ・レダーマン氏は言う。

 カナンはヘブライ人の約束の地となるまで、都市国家の集まりだった。統治していたのは男性の王がほとんどで、王たちは強力な隣人であるエジプト人に貢ぎ物を納めていた。紀元前1350年ごろ、カナンの王たちはエジプトのファラオに粘土板を贈り、ハビルと呼ばれる放浪の侵略者から身を守るため、軍事支援を要請していたのである。

 こうした粘土板は382枚見つかり、そのうち2枚に“ライオンの女王”という女性らしい呼称が記されていた。「女王はエジプトの王宮にハビルが迫っており、都市が危険にさらされていると訴えた」とレダーマン氏は説明する。一部の考古学者は、ライオンの女王はカナンの都市を治めた女性と考えている。ただし、どの都市かまではわかっていない。新たに出土した粘土板は女王とベト・シェメスを結び付けるものかもしれないと、ブニモビッツ氏とレダーマン氏は推測している。

 しかし、新たな粘土板は謎の女王を描いたものだと、誰もが確信しているわけではない。「私の考えでは、この人物は男だ」とカリフォルニア大学ロサンゼルス校でエジプト学の研究を行うキャスリン・クーニー氏は言う。「女性であれば、ひざ丈のキルトではなく、足首までのドレスを着ると思う。それに、この人物は脚を開いて大またで歩いている。典型的な男性の姿勢だ」。

 粘土板には、かつらをかぶった男性の王がハスの女神に捧げ物をしている様が描かれている可能性もある。古代エジプトではハスは死や転生の象徴だからだ。

 アメリカ、テネシー州のメンフィス大学で古代近東の歴史を研究するロバート・グリフィン氏も、粘土板の人物が女性であることには懐疑的だ。ただし、カナンに女性の統治者がいてもおかしくはないと話している。「たしかに普通ではないが、可能性は否定できない」。

 グリフィン氏は、エジプト第18王朝のファラオの妻だったハトシェプスト女王を例に挙げた。ハトシェプストは夫の死後、幼い義理の息子の代わりにファラオとして実権を握ることを正当化するため、男装していたことでよく知られる。グリフィン氏によると、カナンはエジプトの影響が大きかったため、同じようなことがあったかもしれないという。

Photograph courtesy Dr. Zvi Lederman, Tel Beth-Shemesh Excavations

文=Ker Than

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