アラスカのキャンプ。背後に広がる山は、調査対象区域の一部だ。

 アラスカのフィールド生活は、実に原始的だ。

 朝起きたら、お湯を沸かし、コーヒーとオートミールを食べる。歯を磨いたら、バックパックに必要な荷物を詰め、準備ができたら出発だ。山や砂漠をひたすら歩き、お昼になると、ビーフジャーキー、チーズ、ナッツを食べる。食べ終わったら、またひたすら歩く。その頃には、晩ご飯を何にするか話しながら調査を続ける。夕方になったら、キャンプに戻り、フリーズドライフードに湧かしたお湯を注ぐ。この毎日が続く。
 エンターテインメントは、食べ物の話をすることくらい。イタリア料理、ギリシャ料理、当然日本料理、韓国料理・・・。食べ物の話があまりにも頻繁に出始めると、「そろそろ家に帰る時期だね」と笑う。食べ物以外の話もたくさんする。ただし、政治と宗教の話は厳禁。こういうゆっくりとした時間の流れの中で研究仲間と時間を共有すると、他では生まれない団結力が生まれる。

とにかく地味、それでも行きたい

 恐竜研究者って、私が昔抱いていたイメージと、現在私が行っているものとは、かなりかけ離れているようにも思う。何か華やかなイメージがあったが、今現在は、非常に地味な作業だと実感している。

 フィールドに行くと、ひたすら歩く。今日も歩いて、明日も歩く。とにかく気力と体力の勝負。恐竜骨格を見つけると、削岩機やスコップ、ハンマーを片手に土砂と格闘である。よく発掘映像に骨を掘り出している作業が映るが、それは調査期間のほんのひと時であって、ほとんどは土砂をスコップで掻いている。

 映画「ジュラシック・パーク」では、恐竜の全身骨格がわかるような発掘風景が描かれているが、あれもほとんどない風景。見つけた骨化石は、現場ではあまり岩から露出させないで、丸ごと掘り出すのがいちばん良い。骨を露出するような細かい作業は、ラボ(研究室)に戻ってからやる作業だからだ。
 現場では、恐竜骨格の全貌がわからないまま、発掘が進む。もちろん、私たちの専門家の目には、一部の露出でもその骨格の重要性がわかるため問題ないが、経験のない人が発掘を見学に来ると、「どこが骨なの?」とよく聞かれる。

 恐竜化石調査のフィールド作業は、危険が伴うくせに、とにかく地味なのである。それでも無性に行きたくなる。不思議な魅力だ。この魅力がわかる人は、恐竜研究者向きなのだろう。

 つづく

小林 快次(こばやし よしつぐ)

1971年、福井県生まれ。1995年、米国ワイオミング大学地質学地球物理学科卒業。2004年、米国サザンメソジスト大学地球科学科で博士号取得。現在、北海道大学総合博物館准教授、大阪大学総合学術博物館招聘准教授。モンゴルや中国、米国アラスカ州、カナダなど海外での発掘調査を精力的に行い、世界の恐竜研究の最前線で活躍中。著編書に『恐竜時代I 起源から巨大化へ』『日本恐竜探検隊』(以上、岩波書店)、『モンゴル大恐竜 ゴビ砂漠の大型恐竜と鳥類の進化』『ワニと恐竜の共存 巨大ワニと恐竜の世界』(以上、北海道大学出版会)など、監修書に『大人のための「恐竜学」』(祥伝社)、『そして恐竜は鳥になった 最新研究で迫る進化の謎』(誠文堂新光社)など多数。

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