一方、モンゴル南部の調査はゴビ砂漠で行う。夏は猛暑で、昼間外に出続けていると、熱中症になってしまうほどだ。しかも、洗濯がほとんどできないため、1カ月間、なるべく少ない衣服で過ごせるように準備する。砂対策も欠かせない。特にカメラやパソコンといった精密機器に砂は御法度なので、密封できるような工夫をする。アラスカとはまったく異なる準備を強いられる。

移動中にキャンプを張ったモンゴルの砂丘。調査地は、このような砂丘よりも、岩砂漠が広がる場所であることが多い。

 真の探検家からすると、そんなの当たり前だと言われそうだが、そもそも私は恐竜化石を発掘するのが目的なので、このような調査が続くとは思ってもみなかった。日々、怪我をしないかと心配し、一緒に調査する研究者の安否を気遣い、野生動物に襲われないように注意する。こういった緊張感の中で、恐竜化石を見つけ出さなければならない。

フィールド調査の魅力

 毎年、アラスカのフィールド調査が終わりに近づくと、「今年も生きて帰れる」と思うし、モンゴルのフィールドでも、「やっと家に帰れる」と思う。そのくせ、帰りの飛行機に乗ると、「早く来年の夏にならないかな」と切望する。

 フィールド調査の良さは何か?

 まず何と言っても、誰も足を踏み入れていない、未開拓の地を調査できる快感がある。大げさな表現ではあるが、宇宙飛行士のニール・アームストロングが人類で初めて月面に第一歩を踏み出したときのような感覚だ(おそらく、多くのハイカーがアラスカのほとんどの地域に足を踏み入れているだろうし、モンゴルでは現地で暮らしている遊牧民がゴビ砂漠のほとんどを歩いているだろうが、ま、そこは目をつぶるとして・・・)。
 一歩足を踏み出すたびに現れる風景。目の前の岩は、もしかしたら人類で初めて目にするものであるかもしれない。化石が見つかろうものなら、それは間違いなく人類初となる。このような“大発見”を自分の足と目で達成できるというのは、間違いなく快感だ。

 大学にいると、次々と雑務(もちろん重要な雑務ばかりだ)が襲いかかってくるが、フィールドにいると、かかってくる電話もチェックするメールもない。目の前にあるのは、白い息を吐きながら集団で歩くドールビッグホーン(Ovis dalli)であったり、オレンジ色に照らされる美しい崖だったりする。温かいコーヒーを片手に、研究仲間と恐竜について議論する。

 アラスカの場合、そこに生きる厳しさは、実体験によって感覚的に理解できる。夏でもこんなに寒く、日照時間が短くて、食料は限られている。このような環境で恐竜はどうやって過ごしていたのかということを、眠くなるまで語り尽くす。運のいいことに、アラスカの夜は長いため、延々と議論は続く。議論は毎日続き、論文の内容のほとんどがフィールドで組み立てられる。こんなに刺激的・生産的で、ストレスフリーである環境は、(少なくとも私にとって)大学では得るのが難しい。

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