番外編 研究をめぐる不思議な縁について

 清水さんとウルナーボーデン村のフィールドを訪ね、インタビューも終えた夜、さらに追い打ちを掛けるような偶然が訪れた。

 ボルネオ島で、テングザルの研究をする松田一希さん(以前、そのリポートを本連載で書いた)からいきなり連絡があったのだ。ぼくがFacebookでチューリッヒにいると書いたのを目に留めてくれたらしい。

「今、研究でチューリッヒに来ていてます。会いませんか」と。

 松田さんは、テングザルの糞をたくさん採集して、それを調べるためにスイスの共同研究者を訪ね、3ヵ月間、家族と一緒に滞在しているところだった。ぼくが空港に向かう前の時間帯にホテルまで来て下さった。

「こんなにおしゃれな街に来てるのに、僕は乾燥したテングザルの糞をひたすら粉砕する日々です」とのこと。取材で訪ねた時にも計画は聞いていたのだが、シンガポール動物園で飼育されているテングザルの糞を採集して分析する研究が進んでいるそうだ。

 パートナーの悠子さん、4歳と2歳と0歳5カ月の3きょうだいも一緒に訪ねてくれて、とても楽しいひとときだった。

 松田さんは動物の研究者だが、一斉開花という現象を通じて、清水さんと一部のテーマが重なっている。なにしろ松田さんは、スカウ村のフィールドを作った時、まずは生物季節学(フェノロジー)をきちんと押さえるところから始めたくらいだ。ぼくは、「清水健太郎さんを訪ねるべし」と強調し、松田さんは「それ、ボルネオの共同研究者からも言われました」と答えた。

 清水さんと松田さんは、ぼくがチューリッヒを去った1週間後に会ったと連絡を受けた。共同研究に発展するかも知れないとても実りある話し合いだったそうだ。松田さんはスカウのフィールドで、一斉開花を体験しているので、そのことと関係あるのかもしれない。

 飯田史也さんの「生物に発想を得たロボット」。田口勇輝さんらのオオサンショウウオ。松田一希さんのテングザル。そして、会ったことはないけれど、非常に有名な「フィンチの嘴」のグラント夫妻。その弟子のケラー教授。それらの人々が星々のように配置される中に、清水健太郎さんがいる。ぼくにとって、チューリッヒとはそんな印象である。

 本当、It's a small world です。

絶滅したオオナマケモノと。等身大の復元模型は極めて珍しい。(写真クリックで拡大)

おわり 

清水健太郎(しみず けんたろう)

1974年、埼玉県生まれ。スイス・チューリッヒ大学 進化生物・環境学研究所 進化生態ゲノミクス部門長・教授 (Ausserordentlicher Profesor)。1997年、京都大学理学部卒業。2002年、京都大学大学院理学研究科生物科学専攻博士課程修了。日本学術振興会・特別研究員、米国ノースカロライナ州立大学遺伝学科 日本学術振興会・海外特別研究員を経て、2006年、スイス・チューリッヒ大学植物生物学研究所准教授に就任。2011年より現職。『植物の進化―基本概念からモデル生物を活用した比較・進化ゲノム学まで (細胞工学別冊―植物細胞工学シリーズ)』(秀潤社)の監修を担当。『エコゲノミクス ―遺伝子からみた適応―』(共立出版)などの共著がある。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。サッカー小説『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)はNHKでアニメ化され、「銀河へキックオフ」として放送された。ノンフィクション作品に、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。 近著は、中学生になったリョウが世界を飛び回りつつ成長する姿を描いた切なくもきらめく青春物語『リョウ&ナオ』(光村図書出版)。本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)、「昆虫学」「ロボット」「宇宙開発」などの研究室訪問を加筆修正した『「研究室」に行ってみた。』 (ちくまプリマー新書・2014年12月上旬刊行予定)がスピンアウトしている。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider