番外編 研究をめぐる不思議な縁について

 この博物館は、スイスで産する魚竜化石が豊富で、また、リョコウバトやタスマニアタイガーやオオナマケモノなど近年絶滅した動物の貴重な標本がたくさん展示されている。おまけに入場料無料! チューリッヒを訪ねる人は、ぜひ気軽に訪ねてほしいスポットだ。強く推薦しておく。

 さらに、非公開の収蔵庫の標本まで見せていただけることになった。博物館長であり「進化生物学・環境学研究所」の教授でもあるルーカス・ケラーさんが、みずからが案内してくれるという。そのために博物館からはちょっと離れた理学・医学系の学科が集まったイルヒェル・キャンパスを訪ねた。

 いかにもフィールドの男という精悍な雰囲気のケラーさんは、「フィールドばっかり出ているから、収蔵庫に来るのは久しぶりなんだよ」と言いつつ、自分も探検するような雰囲気だった。「オオサンショウウオの標本がみたいなら……」と検索して、コレクションにあるオオサンショウオをすべて見つけてくれた。

博物館館長のルーカス・ケラーさんが案内してくれた。(写真クリックで拡大)

 日本のオオサンショウウオのアルコール液浸標本がいくつもあった。由来はよく分からない。ラベルに1945年と書かれているものもあり、その時期にさすがに日本国内からというのは難しいだろうから、動物園で死んだものかもしれないという結論になった。

 それはそれとして、標本を検索する際、ケラーさんの部屋で、ぼくは壁に掲げられた鳥たちの絵に気づいた。

 ダーウィンフィンチだ。ガラパゴス諸島のフィンチ類で、ダーウィンの名前を冠するのに相応しく、島の環境の中で、植物食、肉食、そして、吸血するものまで、多くの種に分化したことが知られる。まさに進化論の実例といえる。

 さらに、現在もリアルタイムで起きている自然選択の観察でも非常に有名だ。例えば乾燥や多雨に応じて食べ物となる植物が変わると、それに適した嘴のサイズのものがすぐに多くなるなど。これはプリンストン大学のピーター・グラント、ローズマリー・グラントの夫婦らが明らかにして、衝撃的に受け入れられた。詳細は、日本語にも訳された名著「フィンチの嘴」(ハヤカワ文庫)で読める。20年近く前に書かれたものだが、基本的なコンセプトは今も変わらない。

「この絵はどうして?」と聞いたら、ケラーさんはにやりと笑った。

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