清水さんは、今、実験室から野に出ようと呼びかける。

 また、過去の観察の巨人の著作を読むことで見いだされるものの大事さを訴えもする。

 それぞれ、清水さんは実践していることで、具体例を挙げることで本稿を終えたい。

 野外での研究。進化にかかわる研究はすでに述べたけれど、もっと生態学寄りの研究も進行中だ。特に、フェノロジー(生物季節学)に関するものが分かりやすい。

 植物の一生で最も美しく、人の目を楽しませてくれる「開花」にまつわる研究。そこに最新の分子生物学を持ち込むとどうなるか。

「モデル生物の植物って安定した環境の栽培庫で育てられていたりしますが、野生ではどうなのか。京都大学生態学研究所の工藤研究室との共同研究で、兵庫県に自生しているハクサンハタザオという種(清水さんの思い入れの強いミヤマハタザオの親にあたる種)の何個体かを決めて、1時間ごとの気温情報をデータロガーで記録しつつ、週に1回葉もサンプルして遺伝子の発現を見続けたんです。当時、修士課程にいた学生さんが大変な努力をしました。その結果、開花を抑制する遺伝子の発現が、直前の6週間の気温に反応して変動することが分かりました」

ハクサンハタザオ。(写真クリックで拡大)

 人間が栽培する時は、低温にいったん晒してから温度を上げる春化処理が有効なことがある。これは経験的に知られていることだが、実際に野外でもそれに相当することが遺伝子の発現レベルで確認できた。

 清水さんの野外研究はさらに熱帯の複雑な系へと続く。ボルネオ島のランビルヒルズ国立公園の森林で謎に満ちた一斉開花という現象に切り込んでいるのだ。

「──東南アジア熱帯では、主にフタバガキ科の樹木、数百種が同時に咲く、いわゆる一斉開花が何年かに一度、起きます。熱帯生物学で最も壮観でミステリアスな現象とまで言われるくらいで、大規模な生態系を巻き込んだイベントです。予測が非常に難しいことで知られています」

「──人間にとっても大きなことで、実が落ちると大量にブタなどの動物が増えるので、地元民も大量に狩りをして、肉がものすごい食べられるようになる。それと落ちてくる実自体が商業的な価値があって、リップクリームをつくったりするのにいい油がとれるんですよ。数年に1回、地元の人たちは大きい現金収入を得たりするんです」

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