第6回 遺伝子の大博物学時代がやって来た

「2008年に発見して、やっと論文が出る話です。有性生殖で、同じ株にオスとメスがある両性個体の場合、自分同士では子どもをつくらないというのが基本。大部分の植物もそうだし、ホヤやカタツムリもそうですね。そのうちに、精子を作れない個体、つまりメスだけに特化した個体が出てきて、両性個体と共存するという状態もあって、例えばハマダイコンがそうです。そこから、オスとメスが完全に分かれた雌雄異体も出てくる。これは一部の植物、昆虫も、ヒトなど脊椎動物の大部分もそうですね。ここまでで出てきたのが、両性個体のみ、両性個体とメス個体、オスメスが違う個体、という組合わせなんですけれど、では、両性個体とオス個体というのはどうか、というのがダーウィンの問いかけです。彼は色々な人に聞いて回ったけれど結局見つけられなかったというんです。そこまで言われると、探したくなるじゃないですか(笑)」

 清水さんのみならず、多くの研究者がこの具体例を探した結果、今では少しは知られるようになった。代表例は、線虫。線虫は大部分が両性だが、たまにオスが出るそうだ。しかし、本当にきわめてレアな事例であって、ダーウィンの観察はやはり鋭かったとされる。

両性個体の中にオス個体がいるのが見つかったC. amara(写真クリックで拡大)

 そんなレアな事例を、清水さんも最近見つけた。しかも、清水さんにとってはとても親しい植物だ。この連載冒頭部分ですでに紹介したウルナーボーデン村の新種植物の「親」で水辺を好むC. amaraだ。親植物Aなどと、表記していた。

「もともと自家生殖と自家不和合性の実験をやろうと計画していたのですが、野外で種子がついていない個体が目についていました。自家不和合性のためか、生育が悪いせいか、いずれにしろラボに持って帰ってきて育てていました。他の個体から花粉を持ってきて交配するか試したら、これがつかないんですね。このかけ合わせ実験は結構難しいので、単に実験がうまくいかなかっただけって思いがちなんですけど、やったのが妻の理恵(共同研究者)でして、彼女は的確に観察していていました。花をちゃんと見たら、めしべがものすごく短くなってて、機能していなかったのです」

夏のウルナーボーデン村。(写真提供:清水健太郎)(写真クリックで拡大)