第6回 遺伝子の大博物学時代がやって来た

 観察の巨人、例えばチャールズ・ダーウィンの著作などから着想を得ること。

 清水さんはこれについてはいくつか実例を持っており、そのうち2つを紹介する。

 ひとつは「自家生殖」への進化について。

「分布域が急に変わったりして、周りに交配相手がいないと、1個体だけで子供をつくる自家生殖が進化するんです。例えば、10万年単位の氷河期、間氷期のサイクルで分布域が分断されたとき。自家生殖ができると短期的には絶滅が避けられるわけですけど、遺伝的な多様性が減るので、中長期的には絶滅率が高くなる。短期的には進化であり、適応なんだけど、長い目では絶滅しやすくなる、そういう進化があるんじゃないか、という話です」

 ダーウィンは、こういう考察を、自分自身がいとこにあたる女性と結婚し、子どもが病弱だったことにも結びつけていて、ある意味切ない挿話である。

 しかし、疑問がある。自家生殖に1回移行しても、危機が去れば元に戻ればいいではないか。もともと出来ていたのだから、さっさとまたやればいいのに……。

「ところが、自家生殖を抑制する仕組みというのが結構ややこしいんです。自分自身の花粉がもつ精細胞が卵細胞に届かないようする、自家不和合性という仕組みなんですが、雄と雌の細胞にある鍵と鍵穴のような分子の構造がかかわっています。それが個体によって非常に多様なので、自己認識に使えるわけです。ところが、自家生殖をするということは、その自己認識の仕組みを多様性ごとなくしてしまうということでして、一度失うとほぼ回復できないんです。被子植物の歴史の中でも、新しく出たのは10回とかそれぐらいで、失われたのは多分何百万回もあるだろうと。『ドロの法則(進化不可逆の法則)』といいまして、失う進化のほうが簡単です。人間が環境変動をさせると、失う方の進化を促進させちゃって、短期的には適応できても、後で戻れないっていうことが起こるんじゃないかっていうのは、ちょっと気にとめておいたほうがいいことですね」

 ダーウィンが示した鋭い観察に端を発しているもう1つの研究。それは、きわめて珍しい有性生殖についてだ。清水さんはとてもうれしそうに話す。