第6回 遺伝子の大博物学時代がやって来た

 清水さんたちの目論見は、生態系の問題で、人間の経済活動にも影響するこの一斉開花が、どういう条件の時に、どういう遺伝子ネットワークの作用で引き起こされるのか。何百種もの種が一斉に開花できるのはなぜなのか。長年の謎を分子生物学の方法で明らかにしたい、というものだ。

 そのためには、実際に一斉開花を観察できなければ話にならない。幸運なことに、2009年の9月に起こった一斉開花の際、当時のポスドクの竹内やよいさん(現・国立環境研究所)がちょうどその場にいて、芽葉のサンプルを採集した。そして当時の大学院生の小林正樹さんが次世代シークエンサーで発現解析を手がけた。印象的なのは、その時、特にこういう部分があやしいなどと仮説に基づいて探すというのではなく、ゲノムを網羅的にすべて見る、ということ。すべてを読み取る次世代シークエンサーと膨大なデータを処理する生命情報学の力でそれが可能になる。

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「一斉開花の前後で比べるわけですが、サンプルを採った4時点で発現量が有意に違う遺伝子が1128もありました。その中に、開花にかかわるSVPという遺伝子があって、普段高く出てるけど、乾燥した時に下がっているんです。それで、この遺伝子をシロイヌナズナで強制発現させると、実際に開花を阻害しました。これが開花と乾燥ということをつなぐ糸の1つになるわけです」

 1128もの「違い」のある遺伝子をまず見つけて、シロイヌナズナのゲノムのデータベースを使って調べるとことで(モデル生物の面目躍如である)、その中から開花と関係するSVPという遺伝子に着目した。SVPが多く発現すると開花を抑制する方に働く。乾燥によってそれが減少するのだから、一斉開花にとって乾燥は、「開花を引き起こす引き金(トリガー)になっているのではないか」ということになる。

 このテーマは東南アジアの熱帯雨林をめぐるとても大きな問題でもあり、気候変動など地球規模の研究ともリンクしている。清水さんはさらに共同研究の範囲を広げようとしていて、実はぼくが訪ねた時も、このテーマに関する国際ミニシンポジウムが開かれていた。日本からも海洋開発研究機構(JAMSTEC)や国立環境研究所から研究者が参加していた。今後、大いに広がっていく研究分野のようだ。

ボルネオ調査時に使ったクレーン。(写真提供:清水健太郎)(写真クリックで拡大)