第5回 今、生物学は大きく変わろうとしている

「生物の遺伝子は、多くても数万個くらい。それらをどうやりくりして何百万種もの多様な生き物が生まれてきたのか知りたい。いつも、そういう思いが心の中にあります」と清水さんは究極の目標を口にする。

 地球上の生き物が持っている遺伝子は、バクテリアなら数千個。ヒトだろうが、他の動物だろうが、植物だろうが、真核生物では2万個程度で変わらない。ありとあらゆる生き物を貫く共通性と、そこから導かれる多様性。それを理解しようと思ったら、古くからの枠組に留まっていられない。今、生物学は大きく変わろうとしている。清水さんはそう感じている。

 話の流れの中で、当たり前のように受け入れてきたけれど、清水さんの研究スタイルは、フィールドとラボを股に掛けるダイナミックなものだ。清水さんが所属する、チューリッヒ大学の「進化生物学・環境学研究所」も、元々、動物学系、植物学系、医学系の研究室がまとまって再編されたのだという。

 そのあたりの変化は、90年代に大学院生として学び、21世紀に研究者として羽ばたいた清水さん自身の研究史とかなり重なる。

「高校生の時に、生物学と物理学と言語学に興味があって、じゃあ大学の学部は、生物学と物理学がある理学部にしようと。大学2年の時に、夏にイスラエルで1カ月間、生物学の研究経験をするプログラムに参加したのが決定的で、生物学に進もうと決めました。でも生物学といっても広いんです。樹木が好きで、野外で色々な木が生えてるのを見るのが好きだったし、一方で分子生物学もおもしろい。両方やりたい。でも、今から20年くらい前なので、1つの研究室で両方というのは世界じゅうを探してもほとんどありませんでした。分子生物学と進化生態学がくっきりと分かれていて。日本だとミクロ生物学とマクロ生物学という言い方を多分すると思うんですけど」

 生物学、物理学、言語学。非常に広い興味だが、今でも清水さんと話していると物理学や言語学などの話題が飛びだしてくる。人生において継続的な興味になっているのは間違いない。生物学の中で究めていくべき専門性について「ミクロかマクロか」という問われた時に、「両方!」と答えるのも清水さんらしいところなのだった。

フィールドの清水さん。(写真クリックで拡大)