ジャケットを完成させてはみたものの、これをどうやってトラックへ運ぶのか。ここは急斜面の中腹。トラックが入れそうな下へも上にも、標高差30メートルはある。考えている振りはしたが、何の名案も無い。
 「(何か良いアイディアよろしく・・・)」と声に出さず願い、モンゴル人の方をチラチラ見る。しかし、今度ばかりは、モンゴル人もお手上げのようだった。何せ重量が2トン。ひっくり返すのがやっとだった。

 平坦な土地だったらまだしも、目の前にあるのは急斜面だ。斜面の下に車を持ってくればよいとも思ったが、こんな峡谷の底に車を持ってくるのは自殺行為そのものだと言う。仮に車を斜面の下に持ってくることができたとしても、2トンのジャケットを積んだ車は、そのまま身動きが取れなくなる。

 トラックには、長いワイヤーがついたウインチ(巻き上げ機)があった。伸ばしてみると予想以上に長く、もう少しでジャケットに届くことがわかった。距離にして10メートル。高さの違いが3メートルほどだろうか。けん引ロープをジャケットに巻いてワイヤーにつなげれば、何とか届く! ウインチで上まで引っ張れば、ジャケットを崖の上まで持っていけそうだ。

2トンのジャケットと格闘

 すぐにけん引ロープを巻き、準備をした。あとは上から引っ張り上げてもらうだけだ。トラックのエンジンを掛け、ウインチでワイヤーを巻く。間もなくして、ワイヤーもけん引ロープも、ピンと伸びていく。

 私たちは固唾をのんで、その様子を眺めていた。ウインチの力がジャケットにゆっくりと伝わり、ジリっとジャケットがずれたのがわかった。その途端だった。けん引ロープがジャケットの重さに耐えきれずに、轟音(ごうおん)を発して切れた。渓谷中に音が響きわたる。誰もが声を失った瞬間だった。

 これではうまくいかない。けん引ロープを二重に巻けば何とかなるかもしれないが、二重にすると長さが短くなり、ジャケットまで届かない・・・。

 二重にしたけん引ロープをワイヤーにつなぎ、どこまでジャケットを移動すれば届くか考えた。横に5メートル、上に1メートル動かせば、何とか届きそうだ。大した距離には聞こえないが、何せ相手は2トンのジャケットだ。

 ジャケットをひっくり返す要領で、横へと移動させていく。ここまでは問題ない。問題は、高さ1メートルの移動だ。
 横に移動させたのと同じ要領で、斜面の上に向かってジャケットをひっくり返してみたが、高さはあまり稼げなかった。ジャケット自身の重みで下にずれ、砂に埋もれてしまうのだ。高低差にしてやっと30センチくらい上がっただろうか。めげずに再度やってみる。さらに30センチ上がったような気がする。

 クタクタになった私たちは、崖すれすれに停めてあったトラックをもっとギリギリまで近づけられないかと、運転手に頼んでみる。反応は良くなかったが、何とか了承してくれた。浮かない顔をした運転手は、数センチ単位で慎重にトラックを前に出す。しかし1メートルも前に出さないうちに、これが限界とサインを送ってきた。

 斜面を駆け足で降り、ジャケットの元へと戻る。ワイヤーを引っ張り、けん引ロープをジャケットの方へ持っていくと、何とか届いた! ウインチをゆっくりと巻いていくと、ついにジャケットが動き出した。

斜面を削りながら、ようやくジャケットが動き出した! 深い溝から、このジャケットがいかに重いかがわかる。

 ズルッ、ズルッ、と音を立てながら、ジャケットが少しずつ斜面を上っていく。斜面を滑るというよりも、削っている。ジャケットの重さが溝の深さからもわかる。私たちは「ゆっくり、ゆっくり」と大声を上げながら、ジャケットを見つめる。これまでの苦労が嘘のようだ。数分もしないうちに、巨大ジャケットは斜面の上に上がっていた。

 さて、最後の作業だ。この巨大ジャケットをトラックに積み込まなければいけない。地面とトラックの荷台の高低差は、1.2メートルほど。みなさんならどのようにして、この巨大ジャケットをトラックの荷台に乗せるだろうか?

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