乾くのを待ちながら、とんでもないジャケットを作ってしまったことを後悔する。ジャケットを完成させるには、ひっくり返して下半分も石膏で覆わなくてはならない。しかしここには重機が無い。あっても入れるような場所ではない。トラックは化石を発掘した急斜面の50メートルほど上に停めてある。この崖の中腹までトラックを持ってこられるはずもない。巨大なジャケットの上半分が乾いたところで、どうやってひっくり返せばいいのだろう。

モンゴル人スタッフの妙案

 私たちが英語で話しているそばで、モンゴル人たちがモンゴル語で話し始めた。先進国出身の私たちは、技術に頼りすぎて、知恵が乏しい。一方、モンゴルの人たちは、道具が無い状態でも何とかしてしまう、知恵の塊のような人たちだ。

 しばらく話し合ったと思ったら、彼らはどこかへ消えてしまった。そして、10分もしないうちに戻ってきた。その手には、ジャッキが2個、土のう袋、けん引ロープ、分厚い板が握られていた。

 彼らが説明を始める。計画はこうだ。

 発掘の際に出た大量の砂を袋に入れ、土のうをたくさん用意する。ハンマーでジャケットの下を掘り込み、十分な隙間ができたら、ジャッキを噛ます。これは、下を掘り込んでも、ジャケットが落ちてきて怪我をしないため。そして、ジャケットそのものを持ち上げるためだ。

 ジャッキで少しずつジャケットを持ち上げ、隙間に土のうを噛ます。安定させたら分厚い板を土台にし、そこにジャッキを入れ、さらに持ち上げて隙間に土のうを噛ます。これを繰り返してジャケットを角度45度くらいまで傾けたら、けん引ロープをジャケットに掛けて、垂直になるまでゆっくりと引っ張る。
 続いて、垂直に立ったジャケットを倒す方に、土のうを大量に積む。勢いよく倒すと、ジャケットの中の化石が衝撃で壊れてしまうので、そっと倒さなければならない。そこで、ジャケットを土のう側に押す人と、けん引ロープで倒す反対側から引く人に分かれ、力を調整しながら作業する。

 ジャケットが土のうに届いたら、あと1歩。ここからは、さっきの逆をやればいい。ジャッキを噛ませ、土のうを抜く。ジャッキを降ろし、土のうを抜く、という風にだ。

 感心しながら、モンゴル人の指示に従う。すると、時間はかかったが、不思議なくらいうまく、巨大なジャケットをひっくり返すことができた。人間っていうのは、こうやって知恵を使い、自然を味方につければ、不可能に思えることも可能にすることができるのだ。

 ひっくり返したジャケット。裏側を見ても、その巨大さは変わらない。私たちは黙々と、反対の面に石膏を浸した麻布を掛けていく。1時間もしないうちに、巨大な白い固まりが完成した。

巨大なジャケットが完成! あとは運び出すばかりだが、重さが2トンもあるうえに、ここは急斜面の中腹・・・。

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