第3回 急斜面から2トンの化石を運び出すには

幅2メートルはある、ヨロイ竜の腰の骨の化石。この「かご」のような腰の骨の空間に、尻尾の骨も頭骨も入っていた!

※前回まで:モンゴル南部、ゴビ砂漠にある恐竜化石の産地ヘルミンツァフを歩きまわり、1本の恐竜の肋骨を発見した小林さん。チームで発掘を進めたところ、腰の幅が2メートルもある、巨大なヨロイ竜の全身骨格化石だとわかりました!

 私が掘り当てた皿状のものはヨロイ竜の上顎の「くちばし」の部分で、ユン(調査隊を率いる、韓国地質資源研究院のイ・ユンナム)が見つけた三角錐の部分は、頭の後ろの方にある突起だった。
 私たちはハイタッチをし、子どものように飛び跳ね、抱き合った。「こんなことなんてあるの? 尻尾も頭骨も、腰の骨の中にある空間に入っているなんて!」

 少し冷静になった私たちは、お互いに疑問を投げかけた。
 目の前にあるヨロイ竜の腰の骨は、大きな「かご」のようになっている。岩を見ると、このヨロイ竜が生きていた当時の川は、頭の方から尻尾の方にかけて流れていたことがわかる。

 私たちの見解は次の通りだ。

 川辺で死んだヨロイ竜。肉の腐敗は進み、骨が露出していく。手や足の骨は少しずつバラバラになり、下流へと流されていってしまう。頭や残された骨格は1つの大きな岩石のようにまとまった状態で、次第に川の流れに従い、少しずつ下流へと流される。
 しかし、尻尾の先にある「こぶ」が、船のいかりのように川底に引っかかる。腰の骨が水の流れに押されつづけるうちに、引っかかったこぶを軸にして、尻尾が根元で折れる。さらに水が腰の骨を押しつづけるが、こぶが重りになって、流されずにいる。そこに上流から頭骨が流されてきて、幸運にも、かごのような腰の骨の中に収まる。そのうち土砂が次々と流れてきて、ヨロイ竜の骨格をゆっくりと埋めていった・・・。

 通常、全身骨格の発掘は、多少分散している骨を収集するために、広い面積を発掘するケースが多いが、今回はその逆だった。運良く、大事な骨がすべて腰の「かご」に収まった状態なのだ。

 喜んだのもつかの間、次の問題が出てきた。
 「大事な尻尾と頭骨を犠牲にすることはできない。この大きな固まりを二分しようと思ったが、できなくなった。こうなったら、これを1つの固まりのまま、ジャケットにして持っていくしかない」

巨大な化石をひっくり返す

 ジャケットとは、化石を取り囲む母岩(ぼがん)から露出した骨化石を、壊さずに運び出すために作るものだ。
 母岩の外側から骨に向かって掘り込む。ある程度掘り込んだら、準備完了。まず、露出した骨にトイレットペーパーを掛ける。次にかける石膏(せっこう)を後ではがす際に剥離剤として作用し、骨に石膏がくっつかずに済むからだ。
 次に、バケツに水を入れ、石膏を溶かす。帯状に切った麻布を石膏に浸し、母岩ごと骨を覆っていく。骨折したときなどにする、ギプスの要領だ。石膏に浸した麻布を何重かに巻いたら、石膏が固まるまで待つ。乾いたらひっくり返して、反対側も同様に麻布で覆う。
 こうしてできた、石膏に覆われた固まり全体を「ジャケット」と呼ぶ。

ジャケットを作っているところ。石膏に浸した麻布で、母岩ごと化石を覆っていく。

 私たちは巨大なジャケットを作り始めた。かなり大きいため、ジャケットがゆがみにくくなるように、2×4(ツーバイフォー)の板を這わす。板ごと石膏で覆い、強度を高める。かなりの石膏を使った。直径1.5メートルほどの、円盤状の巨大なジャケットの上側が完成した。推定2トンくらいはあるだろうか・・・。

本誌2015年4月号

本誌2015年4月号に、小林快次さんが登場します! 特集「日本のエクスプローラー 小林快次 『謎の恐竜』の正体を突き止めた男」では、半世紀もの間、世界中の恐竜学者が追い求めてきた謎の恐竜「デイノケイルス」の解明や、北海道で発見されたハドロサウルス科恐竜の全身骨格化石の発掘調査に、小林さんがどう関わってきたかを紹介しています。ぜひ併せてご覧ください。