チューリッヒ大学の進化生物学・環境学研究所の清水健太郎教授は、ぼくにとっては、まず、今この瞬間に種分化し「進化」している新種植物の研究者として現れた。そして、その研究によって、ある種の進化のメカニズムや、生き物が環境に応じて生き方を変える仕方を、遺伝子レベルで解明できると知った。

 進化や環境変化への応答など、とても巨視的に思える現象が、細かく見れば分子レベルの現象としても見えてくる。単に、細かい仕組みを解明するというよりも、生物学の様々な階層、生物群集や個体群や個体や細胞やゲノムといったスケールの違うものの間を、縦横無尽、いや上下無尽・天地無用、スケールフリーに往来する。そんな印象だ。

 そして、そういったまさに、「階層を行き来する」研究を支えるのが最新の分子生物学的手法だ。DNAやRNAの配列を高速で読むことができる次世代シークエンサー(NGS)は、この連載でも何度か出てきたし、科学ニュースで目にすることも多い。21世紀の分子生物学研究、いや、生物学研究の鍵となる必須アイテムのひとつだという。

 チューリッヒ大学の機能ゲノムセンターと呼ばれる部署には、現在8台もの次世代シークエンサーが設置され、日々運用されている。清水さんに案内してもらったところ、たどり着く前に「右も左も分からない」状態になった。この大学の巨大な建物群は、だいたい地下でつながっている。厳冬期でも快適に移動するための工夫だ。その分、複雑化しており、慣れない者には迷路にもなりうる。そして、その「生物学ダンジョン」の果てに待つラスボスの部屋のように、ゲノムセンターがあらわれた。

ゲノムセンターに到着。右が清水健太郎さん。(写真クリックで拡大)

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