第4回 21世紀の生物学を支える「次世代シークエンサー」とは

 このシークエンサーの製造元であるイルミナ社のサイトで、よい比較を見つけた。旧世代のシークエンサーで行われた20世紀の大規模国際研究に、ヒトのゲノムすべてを解読したヒトゲノムプロジェクトがある。1990年から2000年まで10年をかけた大計画だった。現在の主戦級マシンであるHi-Seq2500という機種で同じことをしようとすると、「約24時間、1日で可能」(イルミナ社の自己申告)だそうだ。

 10年対1日。これはもう、単純な比較ではなくて、質的な違いという水準に達している。圧倒的な「量」(速さやデータの多さ)の違いは、本当に研究の質を変えてしまうものだから。

 その「質」の変化ゆえに、清水さんは、今や生物学の再編成が起きているのでは、とまで言う。

「歴史的には、基本的にはやっぱり動物学と植物学という区分けがあったわけです。でも、今では実際の研究に使う手法が、特に分子生物学をやってる場合、ショウジョウバエなのか、シロイヌナズナなのか、酵母なのか、対象が違っても、ほとんど同じになってきています。そこで分かれる必然性があんまりなくなってきたんじゃないかと思うんです」

 また、実験室で分子生物学的な方法を主にする研究室と、野外の生態学系の研究をメインにする研究室という対立軸もある。しかし、これも接点が増えているという。

 それであらためて振り返ると、清水さんたちの新種植物の研究は、まさにその「生物学の再編」を象徴するものに思えてきた。ゲノムを追いかける分子生物学であり、環境変化への応答を見るフィールドの生態学であり、もちろん種の誕生を追究する進化生物学でもあるのだから。

つづく

清水健太郎(しみず けんたろう)

1974年、埼玉県生まれ。スイス・チューリッヒ大学 進化生物・環境学研究所 進化生態ゲノミクス部門長・教授 (Ausserordentlicher Profesor)。1997年、京都大学理学部卒業。2002年、京都大学大学院理学研究科生物科学専攻博士課程修了。日本学術振興会・特別研究員、米国ノースカロライナ州立大学遺伝学科 日本学術振興会・海外特別研究員を経て、2006年、スイス・チューリッヒ大学植物生物学研究所准教授に就任。2011年より現職。『植物の進化―基本概念からモデル生物を活用した比較・進化ゲノム学まで (細胞工学別冊―植物細胞工学シリーズ)』(秀潤社)の監修を担当。『エコゲノミクス ―遺伝子からみた適応―』(共立出版)などの共著がある。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。サッカー小説『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)はNHKでアニメ化され、「銀河へキックオフ」として放送された。ノンフィクション作品に、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。 近著は、中学生になったリョウが世界を飛び回りつつ成長する姿を描いた切なくもきらめく青春物語『リョウ&ナオ』(光村図書出版)。本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)、「昆虫学」「ロボット」「宇宙開発」などの研究室訪問を加筆修正した『「研究室」に行ってみた。』 (ちくまプリマー新書・2014年12月上旬刊行予定)がスピンアウトしている。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider