第3回 月の動きをもとに行動計画を立てる

 ということで、初めに手がけたのは極夜探検の具体的な行動計画づくりだった。何月何日にシオラパルクを出発して、何日に最初のデポ地に着いて、そこをいつ出発して、次にどのタイミングでグリーンランド―カナダ間の海峡を渡って……という日程表である。太陽が昇る明るい2月中旬以降の旅であれば、単純に距離を速度で割ることでだいたいの日程は割り出せる。しかし極夜となるとそうはいかない。なぜならば太陽が昇らず真っ暗闇で行動が制約されるからである。

 極夜の旅で重要になってくるのは月の動きだ。一昨年のカナダでの試験的な極夜旅行の経験から、私はこの季節にまともに歩くためには月が出ていることが欠かせないことを痛感した。月が出ていないときの行動は非常に困難である。たしかにヘッドランプをつければ足元の雪や氷の状態はわかるが、ヘッドランプで照らされている場所以外は完全に視界がきかなくなるので全体的な地形や様子が分からなくなる(それに電池の消耗も甚だしい)。

 一方、ヘッドランプをつけないと、次第に目が慣れて全体的な雰囲気は薄ぼんやりとつかめてくるが、今度は足元の状態が分からなくなるので乱氷に突っこんだり、最悪の場合は氷の割れているところに足を踏み入れる危険が出てくる。実際に私はカナダでヘッドランプをつけずに歩いていたときに、氷が割れていることに気がつかず、新雪が積もっているだけの海の上を10メートルほど歩いていてゾッとしたことがあった(驚くべきことに海水は淡水とちがって粘り気があるため、30センチぐらいの積雪があればスキーで歩けてしまうようである)。

 しかし月が出ていると話は別だ。三日月程度の明るさでも、とにかく月さえ出ていれば十分に視界が確保でき、ヘッドランプなしでも行動できる。

 では、夜は月が出ているのだから問題は解決かというと、ことはそう簡単ではない。じつは北極圏のような高緯度地方では月の動きは非常に複雑で、日によって出没時間が大きくズレたり、平気で長期間姿を消したりするのである。1カ月のうち月がまったく姿を見せない期間もあれば、逆に一日中、月が頭上から照らしてくれる日というのもあるのだ。

 これは月の公転軌道面(白道)が天の赤道に対して大きく傾いていることからくる現象なのだが、いずれにしても極夜の探検の計画を立てるには、この月の出没日時をすべて調べ上げ、月が出ている時間を中心に行動するようにしなければならない。少なくともデポ地に到着するときや、氷の不安定な海峡を渡るときなどは、月が出ている期間でなければデポも氷の割れ目もどこにあるかまったく分からないということになりかねないからである。