清水さんによると、ミヤマハタザオは、別の2つの親植物からの倍数体種分化で数万年から数10万年前に生まれたという。親植物のひとつは日本などの温暖な地域に、もうひとつはシベリアなどの寒冷な地域に分布しており、ミヤマハタザオの分布域は2つの親植物をあわせたもよりも広い。いいとこ取りをして、幅広い環境に適応しているようなのだ。いわば、スイス・ウルナーボーデン村の新種植物のような進化を数万年・数10万年前にやりとげた「先輩」である。

ウルナーボーデン村。(写真クリックで拡大)

 ウルナーボーデン村の新種は、今も新しい倍数化が起きたり、今の環境が今後どうなるか分からなかったり(例えば人が住まなくなったら、以前の森にもどってしまうだろう)、まだ状況が不安定だ。つまり数万年後にも残るような種分化なのかどうかは分からない。しかし、「先輩」であるミヤマハタザオは、すっかり定着して、親とも違うニッチを完全に確立している。そういったものをゲノムレベルの研究で見るとどういうことが分かるのだろう。

「実を言いますと、倍数体というのはゲノム研究が難しくて、これまで避けられていたところがあるんです。結構、似た者から染色体をもらって倍数体になっているので、DNA配列が非常に似ているわけです。それを分けて解析するというのがまず非常に難しい。配列決定も大変ですし、遺伝子発現を解析しようとすると、両方を足し合わせた値はわかるんですけど、どっち由来か分けるのが難しいと。でも、次世代シークエンサーをつかって倍数体のゲノム・遺伝子発現解析を行うソフトウェアを情報科学の瀬々潤博士のグループ(現・産総研)が開発してくれたおかげで、やっとできるようになりました。それでミヤマハタザオの研究では、低温ストレスに晒すと、寒地出身の親の方の遺伝子が多く発現してくる例も観察できています。日本の提唱で始まったヒューマンフロンティアサイエンスプログラムが異分野間、大陸間の共同研究をサポートしてくれていて、ドイツのグループとも共同研究になっています」

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