スイスの山村で、つい最近、アブラナ科タネツケバナ属の新種植物が進化して、生まれた。

 流水を好む親植物Aと、乾燥を好む親植物Bが交雑し、中間・変動環境を好む新種植物が登場し、定着したように見える。

 種の分化の瞬間をほぼリアルタイムで見ているわけで、種分化という現象を分子生物学的レベルで解明できるのではと期待される。

研究に使う植物を栽培する「植物部屋」。(写真クリックで拡大)

 まず気になるのは、新種植物がどのように交雑して出来上がったのか。染色体を3セット持つ3倍体で、その1セットを流水を好む親植物Aから、2セットを乾燥を好む親植物Bから得ていることは70年代の研究ですでに分かっていた。では、それをゲノムレベルで見ていくことで何が分かるのか。

「新種植物のゲノムの中に、それぞれの親植物固有の部分を見つけて探す分析をしました。チューリッヒで行った次世代シークエンサーによる配列解析に基づいて、チェコとスロバキアの共同研究者が『マイクロサテライト』という繰り返しが多い部分の中にある親固有の部分をマーカーをつくり、細かく由来を見ていったんです。ヒトDNAを使った親子鑑定や犯罪捜査と同様の方法です。すると、3倍体ができる交雑が1回きりではなく、複数回起源だと分かりました。何度も交雑が起きて、それが新種植物の中に含まれているんです。すごく小さ地域でこの種分化は起きているわけですけど、見た目よりも入り組んだ経緯を辿っているようですね」

 複数回起源ということは、今でも交雑が起こっている可能性があるということだ。すでに現場で見た通り、親植物A(水辺)と親植物B(乾燥した道路脇)は数百メートルと離れずに自生している。中には間近に接する部分もあるだろう。清水さんは「この種分化イベントは終わったわけではなくて、まだ始まったばかりなのかもしれませんよ」とまで言う。ぞくぞくさせられる。

 種分化の起き方が一筋縄ではいかないことについて、さらに様々なことが清水さんと共同研究者たちによって明らかになっている。

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