第2回 わずか100年でどのように新種が誕生したのか

「種の定義にはいろいろありますが、ここで念頭に置いているのは一番よく使われるマイヤーの生物学的種概念です。交配できるものが同種で、できないものは異種です。この場合、親になった種と新種で倍数性が違うので、親と子の間での戻し交雑が起きません。つまり倍数体ができた瞬間がすなわち種分化の瞬間だったと言えます。こういうのを倍数体種分化と呼んでまして、被子植物の15パーセントは、実はこのルートで種分化したとも言われているんです」とのこと。

 実にあっけない種分化だ。もちろん、魔法のような「倍数化」が起こらない種分化もある。それには、比較的、長い時間がかる。

「典型的だと考えられている種分化のシナリオでは、もともと1種であったものが、山で分断されるなどの理由によって遺伝的な交流がない2集団にわかれます。これだけでは同じ種のままですが、時間がたつうちに、ランダムに形質が変化したり、環境に適応したりしていきます。そして、再び出会ったときにもはや交配できないほど違うものになっていたら、種分化が起きたと言えます。長い時間といっても世代時間の長い生物と短い生物でだいぶ異なりますが、大ざっぱにいって数10万年スケールの時間がかかると考えられています」

 少し混乱して、考えた。

 1世代の変化であっても、親植物と交雑できないなら、新種植物と言って良いのは分かる。少なくとも「種分化」は起こったと言うべきだ。でも、「進化」というには、なにか抵抗を感じる。そんなに簡単なものではないだろう……。等々、頭の中はぐちゃぐちゃである。

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「まさにそこです」と清水さん。

「新種がもしも、親になった植物と同じ場所で生活して、同じ生態的なニッチを持っていれば、やはりマイノリティですから、ほとんどの場合、親の植物に勝てずに、遠からず消滅してしまうはずですよね。ですので、こういうふうに倍数体種分化を起こした時、新たな生態的ニッチを獲得できるかということが、新種として定着できるかどうかの決定的な要因になるはずなんです。こういうのは、世界中のあちこちで起きているはずですが、定着できずに消えていく方が圧倒的に多いはずです」

 なるほど! 霧が晴れた。

 やはり、そんなに簡単なものではないのだ。「被子植物の15パーセント」がかつて倍数体種分化を経験した、というのは非常に大きな割合だが、その背後には、数限りない「消えていった新種」がある。