第2回 わずか100年でどのように新種が誕生したのか

 フィールドでも気づいたのだが、清水さんは植物を「ある」ではなく「いる」と表現する。それをふと面白いと思いつつ、ぼくの目に「草」にしか見えないものを形態で見分けたということに、やはり驚きを覚えた。植物を専門にする人は本当に、鋭敏な目を持っており常人にはとうてい分からないものを見ているのではないか、と。

 そのことを指摘すると清水さんは笑った。

「僕らが見ても、非常に似てるんです。いるってわかって見に行ったら見つけられるんですけど、知らないで見つけるのはかなり大変で。最初は、発見者のランドルトさんに案内してもらって教えてもらいました。正直言って、どれがどれってわかるようになるまで結構訓練がいるような感じでした」

 というわけで、少し安心(?)する。植物の専門家でも区別が難しいものなのだ。しかし、そこまで区別がつきにくいのに、はっきりと新種と言えるのはなぜなのか。

 学名にこだわっていると、とても読みにくくなりそうなので、ここからこのタネツケバナ属の種を、親植物A(流水を好むもの)、親植物B(道路脇など乾燥を好むもの)、そして、新種植物(両親の間に分布するもの)とする。

「親植物は両方とも染色体のセットを2つもった2倍体なんです。それらが、交雑する形で、3倍体の新種の植物が出てきて、6倍体も見つかりました。6倍体は、3倍体がさらに倍数化したものだろうとされました」

 2倍体やら3倍体やら、いわゆる倍数体の話が出てきた。ヒトであるぼくたちは、通常、2セットの染色体を持っているから、2倍体である。両方の親から、それぞれ1セットずつの染色体を受け取る。植物の場合、2倍体のみならず3倍体なども自然界に普通にみられる。さらに、人間が介入してできる品種では、染色体など誰も知らない昔から、新たな倍数体を作ることが品種改良の手法としてよく使われてきた。栽培種のパンコムギなど6倍体だ。

 とすると、こんなに簡単に「新しい種」と言ってしまっていいのだろうか、という疑問が頭をもたげた。

流水を好む親植物A(右)と、乾燥を好む親植物B(左)との倍数化により新種のCが誕生した。(出典:細胞工学Vol.33 No.8 2014. pp2-7 図1より許可を得て転載)