第1回 「新種誕生」を見にスイスアルプスへ行ってみた

 なるほど。ハイジが書かれたのは、1880年代。当時、まだ人が定住できなかった土地なのだ。しかし、考えてみると、それは、話題の新種植物が生まれたか、もうすぐ生まれるという時期でもある。アルムおんじが生活の場としていた森が切り拓かれ、ヤギ飼いのペーターの世界になり、さらには「村」に変わっていくのが19世紀末から20世紀、やはり「ハイジの世界」と言ってもよかろう。

(写真クリックで拡大)

 などと1人で納得しつつ、ウルナーボーデン村に到着。そこから先の道路が雪で閉鎖されており、真冬には本当に厳しい自然環境になるとよく分かった。狭い谷の平坦な部分はほとんど牧草地で、ここに新種植物とその親にあたる植物が自生しているというのだが、雪におおわれている中、はたして見つかるかという懸念が頭に浮かんだ。

「どこにいるかは分かっているので、雪をはがしてやれば、見つかると思います。まずは見つけやすい方から……」と清水さん。

 膝くらいの深さまである吹きだまりをかき分けて、小川の近くにやってきた。

「ああ、いましたよ」と腰をかがめて見せてくれたのは、流水の中に没しながら生えている地味な植物だ。丸っこくかわいらしい葉を付けていた。

「親になった植物のひとつです。タネツケバナ属は、Cardamineという属名でこの種の名前がアマラ。C. amaraっていいますね」

右がタネツケバナ属の「アマラ」(Cardamine amara)。(写真クリックで拡大)