今回見つかった顎骨。エチオピアのアファール地域におけるヒト属の最初のメンバーが、かつて考えられていたよりも50万年前に存在していたことになる。(PHOTOGRAPH BY KAYE REED)

 ヒト属の起源を知る重大な手掛かりとなる2つの化石が、3月4日付『Science』誌と同日付『Nature』誌にそれぞれ発表された。

 どちらも下顎骨の化石で、一方はエチオピアで2013年1月に発掘されたばかりの化石、もう一方は半世紀前に発見された重要な標本をCGで復元したものである。これらの化石は、我々が属するヒト属(ホモ属)が猿人(アウストラロピテクス)からいかに進化したかについて、新たな証拠を与えてくれる。

ヒト属の起源50万年さかのぼる

 エチオピアで発掘された化石は、東アフリカでのヒト属の出現を、これまでよりも50万年近くさかのぼらせ、280万年前とするものである。これは、アウストラロピテクス・アファレンシス(アファール猿人)が最後に存在していたとされる300万年前にほど近い。アファール猿人は、ルーシーと呼ばれる頭蓋骨に代表される、直立歩行をしていた小さな脳を持つ種で、ヒト属の直接の祖先と考えられている。今回見つかった「LD 350-1」と呼ばれるこの下顎骨は、1974年にルーシーが発見された場所からわずか数十kmの地点で、2013年1月に発見された。

 東アフリカ地溝帯に属するアファール州では、これまでにも貴重なヒト亜科の化石が数多く出土している。これまでヒト属最古の上顎として知られていた「AL 666-1」と呼ばれる230万年前の化石も、同州で発見されている。

 200万年前から300万年前のヒト属の化石は、極めて珍しい。新発見の標本の分析で共同責任者を務めたアリゾナ州立大学人類起源研究所のビル・キンベル所長は、かつてこう言っていたことがある。「(その時期の化石を)すべて小さな靴箱に入れても、まだ一足分ぐらいの余裕がある」

 この時期の化石は、臼歯や下顎の形状など、現代のヒト属と共通する特徴を持っている一方で、顎の前部の形はヒト属よりも原始的で、アファール猿人の特徴に近い。「今回の発見により、ヒト属の出発点を探す期間が狭まり、焦点を絞ることができます。(この下顎骨は)その時期に想定される、移行期にありがちな形態をしています。顎は過去にさかのぼり、歯は先取りしているのです」

南アフリカ起源説と対立か

 この新しい下顎骨は、ヒト属の東アフリカ起源説を強調する一方で、ヒト属の直接の先祖をアフリカ南部のアウストラロピテクス・セディバ(セディバ猿人)とする説とは対立する。Science誌に掲載された論文の著者らは、セディバ猿人の唯一の標本は、エチオピアで新しく発見された顎よりも100万年近く後のものであることを指摘している。

 ところが、ニューヨーク州立大学ストーニー・ブルック校のフレッド・グラインは、セディバ猿人やそれによく似た種が、もっと古くから存在していた可能性があると反論する。「新しい下顎骨の発見によって他の先祖が考えにくくなるというアイデアはばかげています。それでは、化石記録が完全だと言っているようなもの。我々は、そうではないことを知っています。なぜなら彼らは、ただそれまでになかったものを発見したに過ぎないのだから」

Emily M. Eng, NG Staff. Sources: Science

 ペンシルベニア州立大学のエリン・ディマジオらによる付随論文によると、Ledi-Geraruと呼ばれる下顎骨の発掘現場は、280万年前、草と低木が混在した、現在のセレンゲティのような土地だった。同時期に存在していた動物種から、より開けた乾燥地へ移動したことが示唆されている。このことは、世界的な気候変動が、多くの動物の進化系統における進化的変化のきっかけになったという仮説を裏付ける。

 人類起源研究所でLedi-Geraruプロジェクト・ディレクターを務めるケイ・リードはこう言う。「280万年前のLedi-Geraruの動物界が、乾燥していたことを示すシグナルが見られます。だからと言って、気候変動がヒト属の起源に寄与していたと言いきるのはまだ早いですが」

「Handy Man」を復元

 エチオピアの新発見は古人類学者らを驚かせたが、その重要性をさらに強調する論文が同日、『Nature』誌に掲載された。エチオピアの下顎骨より100万年後(180万年前)のヒト属の化石が再現されたという内容だ。

 ホモ・ハビリス(ハビリス原人)またはそのタイプ種に属するこの顎は、1964年にタンザニアのオルドバイ渓谷で、ルイス・リーキーとメアリー・リーキーによって発見された。当時としては最古の石器とともに発見されたため、「Handy Man」(器用な人)というあだ名が付けられた(その後、それよりもずっと昔の260万年前の道具がエチオピアで発見されている)。

 以降ホモ・ハビリスは、人類系統樹の重要な位置を確保してきたが、標本が断片的(大きくゆがめられた顎骨、頭蓋骨の小さな破片多数、手の破片から成る)であるという問題も抱えていた。

 ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのフレッド・スプアーは、ドイツマックスプランク進化人類学研究所との共同研究により、コンピューター断層撮影(CT)と最新の3次元イメージング技術を使用して、下顎の外見をデジタルで再現した。その細い顎の形と、歯が平行に並んでいる様子から、アウストラロピテクス属の顎に近いことがわかる。アウストラロピテクス属は、ヒト属以前から存在する、人類の祖先の仲間である。

ホモ・ハビリスの頭蓋骨を再現したところ、原始的な特徴と近代的な特徴の両方を持つことがわかった。特に、脳が以前考えられていたよりも大きいことから、ヒト属に大きい脳を持つ共通の祖先がいたことが示唆されている。(PHOTOGRAPH BY JOHN READER)

 アファールで発見された230万年前のヒト属AL 666-1の上顎よりも50万年後のものであるにもかかわらず、新しく再現された顎骨は、明らかに原始的である。このことは、230万年前より前に、さらに原始的なヒト属が存在しており、それが2つの系統に分かれたことを示唆している。

 そして、エチオピアで新しく発見された280万年前の顎も、その条件にピタリと当てはまるのだ。

「Ledi-Geraruの顎は、あたかも“リクエストに応じて”出土したかのように、アウストラロピテクス・アファレンシスとホモ・ハビリスの間に存在する進化の関係を示唆するものです」とスプアーは述べている。

脳の大容量化は、もっと古くから始まっていた

 スプアーらは、オリジナルのホモ・ハビリスの標本から、頭蓋もデジタルで再現している。それまで頭蓋の容量は、典型的なアウストラロピテクス属よりも多く、後の人類よりも少ない700ccと考えられていたが、新しく再現された頭蓋容量は、800ccとなった。これによりホモ・ハビリスは、200万年前の東アフリカのサバンナを歩いていたヒト属の2つの種(ホモ・ルドルフエンシスとホモ・エレクトス)と同じ知識階級に属することになる。

 スプアーは昨年8月、ケニアのトゥルカナ盆地研究所で開かれた会議で初めてこの再現計画を議論した際、「ここにあるのは、非常に原始的な鼻先と、大きな脳を持つ獣である」と述べている。

 同時期に存在した3つの種(ホモ・ハビリス、ホモ・ルドルフエンシス、ホモ・エレクトス)が個別に脳の大きさを進化させたとは考えにくいため、それらに共通の祖先が、これまで考えていたよりもずっと昔から、すでに大きな脳を持つ針路を取っていたと考えられる。このことは、今まで考えられていた、ヒト属の系統における脳の大型化と最初の石器の間の関係を覆すかもしれない。

文=Jamie Shreeve/訳=堀込泰三