第19回 起きたい時間に目が覚める不思議なチカラ

 覚醒時刻は、体内時計で定められた寝付き時刻と疲労回復に何時間寝なくてはならないかという睡眠恒常性によってある程度自動的に決まってしまう。それを睡眠中にもかかわらず意思のチカラでターミネートするのだからよほどのことが体内で生じているはずである。どのようなメカニズムで自己覚醒が可能になるのか興味のあるところだが、残念ながら未だに謎に包まれている。しかし、これまでに幾つかの興味深い現象が確認されているのでご紹介したい。

 自己覚醒について話すと「興奮で眠りが浅くなっているんじゃないの?」とよく問われるのだが、この自然な目覚めは眠りが浅くなるなど睡眠の質が低下して生じているのではない。我々が行った研究では、同じ人でも自己覚醒を試みた夜は普段の夜よりも入眠直後に深い睡眠で見られる脳波(δ波)が増加していた。効率よく脳を休めることで、睡眠後半の目覚めを楽にしているのかもしれない。さらに、自己覚醒に成功した人の右前頭葉の血流が驚くべきことに覚醒の30分ほど前から増加することも分かった。目が覚める前から大脳の活動が高まるのだ。

(イラスト:三島由美子)(画像クリックで拡大)

 他にも、起床予定時刻の少し前にレム睡眠が登場することが多いことがいくつかの研究で確認されている。レム睡眠時には大脳皮質の血流が増加するため、その直後に目が覚めると覚醒しやすいと思われる。しかし、なぜレム睡眠が予定時刻の近くで増加するのか、肝心の点が不明のままである。

 なかなかブレイクスルーが起こらない中、世界中の睡眠研究者や体内時計研究者を驚かせる研究が登場した。最も権威ある科学雑誌の1つである『ネイチャー』に掲載されたため大変な話題になった。この研究では同じ被験者で日を変えて3回にわたり実験室で睡眠とホルモン測定を行ったのだが、それぞれ以下のような異なる説明をしてから消灯してもらったのである。

1)寝る前に「朝9時に起こします」と伝えて9時起こす(平常夜)
2)寝る前に「朝6時に起こします」と伝えて6時に起こす(自己覚醒夜)
3)寝る前に「朝9時に起こします」と伝えて実際には6時に「脳波計の故障で実験終了です」と言って起こす(サプライズ夜)

 被験者はランダムな順番で3回の検査を受けたのだが、サプライズ夜のことはアクシデントだと思い込ませるのがポイントである。「6時に起こされる(起きなくてはいけない)」という自己覚醒の影響をみるためには「6時に起きなくても良い」と言われた晩のデータではなく「9時まで寝るのだ」と思い込ませて突然6時に起こした時のデータと比較する必要があるのだ。なぜなら、「6時に起きなくても良い」と言われた時点ですでに何らかの暗示効果が生じるからである。

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