伝説はスペイン征服時代からあった
この遺跡現場が初めて特定されたのは、2012年5月、ラ・モスキティアにある山奥の渓谷を航空調査していた時だった。この一帯には広大な沼地、川、山が広がり、まだ科学調査が一度も入ったことのない希少なエリアも点在する。
過去100年の間、探検家や金鉱を探す人々の間で、ジャングルの木々の上にわずかに頭を覗かせる失われた都市の城壁跡を見たという噂が語り継がれてきた。土地に伝わる古い話によれば、スペインの征服者たちがやってきた時、先住民たちは「シウダー・ブランカ(白い街)」または「カカオの実るところ」と呼ばれる場所へ身を隠した。そこはエデンのような謎めいた楽園で、足を踏み入れて戻った者は誰もいないという。
1920年代以降、この伝説の「白い街」を探し求めて多くの探検隊がこの地へやってきた。変わり者で知られる探険家のセオドア・モルデも、1940年に国立アメリカ・インディアン博物館(現在はスミソニアン協会の一部)の支援を受けて密林へ入った。
モスキティアから戻ったモルデは、森の中で幻の街を発見したと話し、数千もの遺物を持ち帰った。先住民の話を聞くと、そこには巨大な猿神の像が埋まっているとのことだった。モルデは、盗掘者に狙われる恐れがあるとして、場所を明らかにしないまま自殺してしまったため、幻の街へ行ったという彼の話が事実だったとしても、結局それがどこにあったのかは謎である。
そして最近になって再び、ドキュメンタリー映画製作者のスティーブ・エルキンス氏とビル・ベネンソン氏が新たな探検チームを結成し、失われた街の探索へ乗り出した。
2人は、険しい山々に囲まれたクレーターのような渓谷を見つけ、調査の的を絞った。
2012年、ヒューストン大学の航空機レーザー測量センターの協力を得て、100万ドルのLIDAR(Light Detection and Ranging)スキャナーを積んだセスナ機で渓谷の上空を飛び、レーザーの光を当ててジャングルを上から調査した。LIDARは、どんなに鬱蒼とした密林でも、その下に隠れている地形を正確に描き、もしそこに考古学的遺跡があれば、探し当てることができる。
こうして得られた画像を見てみると、谷の中に1.6キロ以上にわたって不自然な地形が続いていることが分かった。さらにフィッシャー氏が画像を詳しく調べてみたところ、川に沿った地形がほぼ全て人間の手によって変えられていたことが明らかになった。
儀式用の建造物、巨大な土塁や家屋の跡、かんがい用と見られる水路や溜め池などの痕跡が認められ、それらはすべて、先コロンブス期に都市が栄えていたことを物語っていた。