※この発見についての詳細は、2015年12月30日発売の『ナショナル ジオグラフィック日本版』2016年1月号で、見つかった都市の想像図や写真を含めて詳しく紹介します。
ホンジュラスの密林へ分け入った探検隊が、失われた文明の遺跡を発見したという驚くべき報告を携えて戻ってきた。この地域には昔から「猿神王国」あるいは「シウダー・ブランカ(白い街)」という古代文明にまつわる伝説が存在し、その遺跡がどこかに眠っているといわれてきた。探検隊はその場所を確かめるために、人里離れた未開のジャングルへと足を踏み入れた。
発見された遺跡は今からおよそ1000年前に栄え、その後滅びた文明のものと思われる。考古学者らは、広大な広場、土塁、丘、土でできたピラミッド跡を測量、地図を作成し、今年2月に調査結果を持ち帰った。古代に街が棄てられて以来誰にも手を付けられず、そのまま残されていた石の彫像物の数々も発見された。
この近くで有名な古代文明といえばマヤ文明だが、今回新たに見つかった文明についてはほとんど研究がなされていない。今まで存在が全く知られていなかったため、名前すら持たない。
コロラド州立大学の考古学者でメソアメリカ専門のクリストファー・フィッシャー氏は、手つかずで荒らされた形跡が全くない状態で見つかることは「きわめて珍しい」と語る。
ピラミッドの足元で見つかった52体の石の彫像は、地中から頭を出した状態で、捧げ物として用いられていたのではないかとフィッシャー氏は考えている。その中には、メタテと呼ばれる儀式用の台座石や、蛇、コンドル、動物の形に精密な彫刻を施した箱などがあった。他にも多くの遺物が地中に埋まっていると見られており、さらにその下には墓が眠っている可能性もある。
中でも最も奇妙だった出土品は、一部が人間で一部がジャガーの姿をした生き物の頭部の彫り物である。フィッシャー氏は、シャーマン(宗教的指導者)が霊的変身を遂げた姿を表しているのではないかという。あるいは、メソアメリカで先コロンブス期に行われていた儀式的なボールゲームに関係するものとも考えられる。「彫り物はヘルメットを被っているように見えます」とフィッシャー氏。調査チームのメンバーで、ホンジュラス国立人類学歴史学研究所(IHAH)の主任考古学者オスカー・ニール・クルズ氏は、これらの遺物が西暦1000~1400年頃のものだろうと推測した。
発見された遺物は記録に取られたが、発掘せずに元の場所に残してある。盗掘の被害を防ぐため、遺跡の位置は公表されていない。