経済を規制する「リベラル」が自由主義なわけ

 私事で恐縮ですが、「○○大統領はリベラルだったから」のような言葉をきくたびに「リベラル」という概念が一体何なのかがわからないことがありました。リベラルとは「自由主義」の意味です。米国でリベラルと言われる政治家が保護政策をとったり、反対に保守的と思われる政治家が自由貿易を主張したりするのを見て、ますます混乱しました。

 米国の民主党と共和党もそんな対象でした。政権の変遷の中で程度の違いはありますが、経済政策において民主党が大きな政府をつくり、共和党は小さな政府で自由競争を進めてきました。といいながら、一般にリベラルと言われるのは民主党で、共和党は保守主義だと言われ、リベラルが意味するものが分野によるものの違いなのか、そもそもリベラルとはもっと別なものを指すのかわかりませんでした。要するに、自由主義が何かよくわかっていなかったようです。今回は、このことについて「ビジュアル教養大事典」の「社会・政治・法律」章の「自由主義」の項を読みながら探ってみたいと思います。

 まずは「自由主義」(リベラリズム)です。教養大事典によれば「自由主義は個人の自由を尊重し、外部からの強制に否定的な立場をとる。そのため、国家の役割はおもに個人が自分の生きかたを決められるようにすることだと考える。自由主義は、個人の人権を守り、政治権力に対しては憲法で制限することが重要だ」(「自由主義」の項)とあります。つまり、個人の自由を制限する力に対しては、徹底的に反対するわけですね。なるほど、これはよくわかります。

 では、先ほど書いた、リベラルと言われる政党や政治家が自由とは反する保護政策を主張するのはなぜか?という、「リベラル問題」の答えはというと……ありました。「教養大事典」によれば「現在、米国で『自由主義(リベラル)』が、国家による経済統制と社会改良を意味するのはこのため」とあります。やはり、米国では、経済統制の意味がリベラルにあるんですね(私だけが混乱しているわけではないようでホッとしました)。ポイントとなる「このため」が、「どのためな」のかは、これから順を追って見ていきます。

革命で誕生した2つの自由主義的法治国家

 ところで、自由主義が発展して登場した、近代を代表する国のことを「自由主義的法治国家」というそうです。この国家がいつ誕生したか、皆さんはご存知でしょうか? 少し関係があるので、お付き合いください。「教養大事典」の同じ「社会・政治・法律」の章、「革命と近代の到来」の項には、次のようなことも書かれていました。「1776年と1789年に起きた革命は、19世紀のヨーロッパにおける民主主義の時代を開いた。そして産業化の進展に伴い、労働者階級が誕生する」とあります。

 二つの革命が何を指すか、すぐにわかったかたは流石です。1776年は「アメリカ革命」、そして1789年は「フランス革命」です。アメリカ革命?、アメリカ独立戦争と言ったほうがわかりやすい。ただ、私の高校時代は革命ではなく植民地からの独立戦争として習った記憶があります。ほかに「革命」と名付けられているもので学校で習ったのは、イギリスの名誉革命と清教徒革命ですが、こちらは17世紀のもの。18世紀、民主主義が進むのに重要な役割を果たしたのは、この二つの革命というのが「教養大事典」の認識のようです。「自由主義」を説明した項にも、「自由主義的法治国家は米国で1776年に、フランスで1789年に、ともに革命を通じて誕生した」とこの話が再度、登場します。 

 フランスは国王が統治し、独立前の米国は英国王の代理である総督に統治されていました。米仏で起きた二つの出来事は、これら旧来の国の体制を、市民参加による共和制へと変えたわけですから、まさに社会体制を転回した「革命」だったわけです。

 さらに「教養大事典」の「自由主義」の項を読み進めると、興味深い記述がありました。17世紀の思想家、社会契約論で有名なジョン・ロックについての説明には、こうあります。「ジョン・ロックは自由主義の祖とされ、合衆国憲法に多大な影響を与えた」

 「自由の国アメリカ」とよく言われますが、そのルーツはロックにあったのですね。以前、故丸山眞男教授がロックを評して「17世紀に身を置きながら、18世紀を支配した思想家」としたと、何かの本で読んだことがありましたが、ロックが合衆国憲法に影響を与えたとなれば、その通りです。となると、ロックの影響が大きく、共和制の民主主義から始まった自由主義的法治国家である米国では、民主党も共和党も、どちらも自由を求める市民の政党と考えてよさそうです。主張や政策は違っても、どちらも自由主義=リベラルが政治的な根底にあるわけです。

 では、冒頭に書いたように、「米国で『リベラル』という言葉に、国家による経済統制と社会改良」を意味することがあるというのは、いったいどういうことなのでしょう。今度は経済的な側面から見ていきましょう。経済的な意味での自由主義に対立する概念は「規制」だったり「計画」だったり、どこか社会主義的なニュアンスがあります。それがどうして、米国では「リベラル」に? 

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