今から7万年前、太陽系の内側に、ある星が飛来した。現生人類がアフリカからの移動を始めようとしており、ネアンデルタール人も絶滅していない時代である。
学術誌『Astrophysical Journal Letters』に発表されたレポートによると、地球から1光年未満の距離をかすめ去ったその星は、史上もっとも接近した、恒星と地球のニアミス事故だった。
「ショルツ星」と呼ばれるその赤色矮星は、ふつうは薄暗くて肉眼では見えない。しかし、地球への接近時には、初期人類の目に、その燃え上がる姿を見せたことだろう。科学者が、ショルツ星の軌道を計算したところ、太陽系の0.8光年(約7.6兆km)まで接近していたことがわかった。0.8光年といえば、太陽系の外縁、オールトの雲と呼ばれる、数兆個単位の彗星で埋め尽くされた広大な領域の内側である。
彗星の嵐が地球を襲った?
オールト雲を直接観測することはできないが、それを構成する彗星の一部は定期的に太陽系の中ほどまで訪れていると言われている。しかし、恒星のような巨大な物体がオールトの雲を通過したと仮定するなら、もっとたくさんの彗星が地球に飛来したはずだ。
彗星の嵐は、地球上の生命に壊滅的な被害をもたらしただろう。そこで天文学者らは、この接近劇がどれほど一般的に起きるものかを突き止めようとしているが、今のところ心配はいらなそうだ。次に恒星が近づくのは今から24~47万年後で、オールトの雲には突入しないと予想されている。
褐色矮星とともに連星系を構成するショルツ星は、最近発見されたばかり。横道にそれることなく、まっすぐ地球に近づき、そして去っていったと考えられており、その奇妙な動きに注目が集まっている。
現在、太陽に最も近い恒星はプロキシマ・ケンタウリで、4.2光年。これは、ショルツ星最接近時の5倍の距離である。
2013年に欧州宇宙機関が打ち上げた衛星「ガイア」は、宇宙にある数十億の恒星の位置を示す地図作りをミッションにしている。ガイアが収集するデータの一部は、太陽系に接近した星と、今後接近する可能性がある星を見つけることを目的としている。
地球をかすめ去ったショルツ星は、現在は約20光年先のいっかくじゅう座の近くにある。