第18回 朝の目覚め感をよくするには
ふだんの眠りで目覚め感をよくするための誰でもできる秘策はない。すぐに思いつくのは、6時間後や7時間半後などレム-ノンレム睡眠周期である90分の倍数で覚醒する(目覚ましをかける)方法である。明け方のレム睡眠が終わった直後の浅い睡眠段階で覚醒することを狙ったものだが、レム-ノンレム睡眠周期には個人差があるのでなかなか理論通りにいかないことが多い。しかもその日の疲労度や就床時刻によってもレム睡眠が出現するタイミングが変化する。
現時点ではさまざまなレム-ノンレム睡眠周期で目覚め感をモニターし、睡眠慣性が最も小さくなる自分なりの時刻設定を試行錯誤で見つけ出すしかない。自宅でも簡単に測定できる簡易脳波計の開発が進んで値段も10万円を切るところまで来ている。脳波判読ソフトの精度も日進月歩なので、浅い睡眠で心地よく起こしてくれる目覚まし時計も遠からず登場するだろう。私のみるところ数年以内には「高級置き時計」くらいの値段で発売されるのではないだろうか。
最後に、睡眠慣性が強いとその夜の睡眠の質が悪かったのではないかと考えがちだが、それは正しくないことは指摘しておきたい。今回ご説明したように睡眠慣性は覚醒直前の睡眠深度が関係するのであって、睡眠時間や一晩を通しての睡眠深度とは直接関連しない。逆に睡眠慣性が少ないからといって睡眠の質がよいとも言えない。睡眠時無呼吸症候群や不眠症などでは睡眠が浅いためむしろ睡眠慣性が軽いことすらある。
次回は睡眠慣性を抑え、目覚め感をよくするための秘技「自己覚醒」についてご紹介したい。誰もができるわけではないが、ちょっと不思議な覚醒能力を持っている人がいるのである。
つづく

(イラスト:三島由美子)
三島和夫(みしま かずお)
1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。
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