第3回 インドで働く日本人ビジネスマンの苦悩

――小説の交渉場面では、腹のさぐりあいどころではなく、だまし討ちも、裏切りも出てきますが。

 小説は見てきたようなウソをつく世界ですから、そこは割り引いて読んでほしいのですが、日本の常識では考えられないことがいろいろあるようです。本音がどこにあるのかわからないとか、約束ごとがきちんと守られないとか、いろいろと無理な条件をつけてくるとか。

 『インドクリスタル』を書こうと思って1年ほど経ったころ、元インド駐在員の勉強会の存在を知って、メンバーの方々からもお話をうかがったのですが、日本 人ビジネスマンが、もっともつらいのは、インドの実情をよく知らない本社からの一方的な指示だそうです。この契約はどうなっている、何をやっているんだ、 と日本の基準で要求されるものだから、板挟みになってしまう。

 それでも昔は、日本人会のような駐在員のコミュニティーがあって、そこで助け合っていたようですが、今はそういう横のつながりも希薄になってきているので、精神的にも追い込まれることがあるようです。

インドのうっそうとした茂みを進む篠田さん。「本の旅人」(角川書店)2015年1月号より(写真クリックで拡大)

――先にインドへの取材旅行のことを聞きましたが、それが作品にどう影響したのかを最後にうかがうことにしましょう。

(つづく)

篠田節子(しのだ せつこ)

1955年、東京都生まれ。90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。97年『ゴサインタン―神の座―』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞を受賞。著書に『はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか』『銀婚式』『長女たち』など多数。昨年12月、作家生活25周年記念作品として、インドを舞台にしたビジネス冒険大作『インドクリスタル』を発表。


高橋盛男(たかはし もりお)

1957年、新潟県生まれ。フリーランスライター。自動車専門誌の編集を手がけたのちフリーライターに。JR東日本新幹線車内誌「トランヴェール」、プレジデント社「プレジデント」「プレジデントファミリー」などに執筆。