第3回 インドで働く日本人ビジネスマンの苦悩

 でも当初、小説で取り上げるつもりの鉱物は水晶ではなく、黄銅もしくは別の金属を考えていました。ところが鉄鉱石や黄銅などは、インドでは戦略物資として国が管理しています。そうなると、現地の鉱業や取引に関われるとしても、大企業や国が主体となる。物語にしにくいんですね。それで水晶にしたのです。

 水晶は多くの宝石の出るインドのような国では、砂利同然の扱いですが、ある分野の特定の用途では高い価値を持つ。そこがおもしろいなと思いました。

――しかし、なぜ鉱物を題材に?

 インドについていろいろ調べていたときに、たまたま金属会社に勤めていて、インドの鉱山を回ったという方に話を聞く機会があったんです。ムンバイの高級ホテルに滞在して、各地の鉱山を回ったそうですが、彼が言うんです。
「ホテルを出て鉱山につくまで、スラム、スラム、スラム、それしかない」と。

 そこから出てきたのは、現地での仕事の愚痴と絶望的な言葉ばかりでした。インド社会のすさまじい格差の話とか、日本や他の先進国では当たり前の交渉術が、現地ではまったく通じないとか。