1990年代末から、エジプトとパレスチナのガザ地区を隔てるフェンスの下に、何本ものトンネルが掘られてきた。エジプトとガザの国境は、長期にわたりイスラエルによって封鎖されている。トンネルは密入国や、武器、爆薬、ドラッグなどの輸送に使われている一方で、食料や日用品をガザ地区に運び込む命綱でもある。

ガザに暮らす人々にとって生命線ともいえる秘密のトンネル。だが、多くのトンネルを牛耳る犯罪組織の手にかかって苦しむ住民も少なくない。(c) Shawn Baldwin/Corbis

■ガザ地区封鎖の歴史

 イスラエルとエジプトに囲まれた、地中海沿岸に位置するガザ地区は、東西40キロ、南北10キロの小さな地区だが、ここに150万人以上のパレスチナ人が住んでいる。ガザ地区は1967年の第三次中東戦争ののち、エジプトからイスラエルの支配下に入った。イスラエルはガザ地区との境界を管理し、出入りを厳重に制限した。
 1979年にエジプト・イスラエル平和条約が成立すると、エジプトはガザ地区との国境沿いにフィラデルフィア・ルートと呼ばれる緩衝地帯を設置。国境を封鎖し、わずかな正規の貿易目的以外の通行を禁止した。
 2007年にガザ地区をイスラム原理主義組織ハマスが掌握すると封鎖は一層厳しくなり、人道的支援が目的の場合をのぞいて通行は禁止された。イスラエルはハマスをテロ組織とみなしているからだ。
 厳しくなっていくガザ地区封鎖を背景に、1997年、フィラデルフィア・ルートの地下に、エジプトとガザ南部を結ぶ秘密のトンネルが掘られている証拠が見つかったのだ。

■ペットから武器まで、あらゆるものを運ぶトンネル

 トンネルは武器や弾薬の密輸入に限らず、人の往来にも使われてきた。麻薬の主要な密輸ルートでもある。それだけでなく、イスラエルによる封鎖が強まるにつれ、食料、衣類、タバコ、酒、建築資材、必須医薬品、さらに車までも輸送されるようになった。
 車をばらしてトンネル経由で密輸し、運び込んだ先で組み立てているという噂は早くからあったが、最近では、車がそのまま走行できる広さのトンネルもあるという。だが密輸品で多いのは、車より運びやすいオートバイだ。時には競走馬やウシの一団が運ばれ、ペット用のハトも人気があるという。

■トンネル・ビジネスの横行

 トンネルの深さは地下3~20メートル、多くは地下15メートルほどだ。全長は800メートルに達するものもある。幅もまちまちだが、多くは肩幅ていどだ。ガザ側の入り口は私有地の地下室にあることが多く、れんが造りの竪坑をはしごで降りる。人目につかないオリーブ林に隠れていることもある。
 トンネルを掘っているのはおもに私企業で、資金を提供する個人や団体には大きな利益がもたらされる。トンネルの所有者や密輸業者、そしてハマスの役人までが上前をはねる一大ビジネスなのだ。
 標準的なトンネルの建設費はおよそ10万ドルで、運営コストも相当なものだ。発電装置や通信システム、高性能の換気装置を備えたトンネルもある。こうしたトンネル事業への投資を持ちかける詐欺まであり、2009年に多くのガザ市民が被害を受け、1 億~5 億ドルの損害を被ったという。
 2010年の推定では、1000本を超えるトンネルが存在し、約7000人の労働者が雇われているとされている。トンネル内部はいつ崩落するか分からない危険な状況で、命を落とすことも少なくないという。

密輸の現場。ガザ地区側の密輸業者が、滑車を使って地下トンネルから中身の分からない荷物を引き上げている。(c) IBRAHEEM ABU MUSTAFA/Reuters/Corbis

 何年にもわたって、密輸を取り締まる試みがなされてきた。NATO(北大西洋条約機構)の幹部を含め、国際社会は危険な違法トンネルを根絶することを宣言している。イスラエルはこれまで空爆で数千本のトンネルを破壊し、さらに地下の掘削を感知できる技術を開発した。2009年にはエジプトが既存のトンネルを塞ぎ、新たなトンネルの建設をさまたげる防壁を建設し始めた。2014年には再び、イスラエルによる大規模な空爆が敢行された。
 だがこうした国際世論とは裏腹に、この地域への物資の輸入が公に認められるまでは、住民の生活に欠かせないトンネルがなくなることはないだろう。

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