第1回 ファンタジーのつもりがビジネス冒険小説に

 でも、当初は『インドクリスタル』のようなアドベンチャー小説ではなく、ファンタジーを考えていました。

 インドのヒンドゥー世界のなかで、美しい女神と出会った日本人のビジネスマンが、その神秘的な世界にからめとられていくというような。恋愛ものというのではなく、耽美的でちょっと残酷な伝奇ファンタジーです。

 ところが、調べていくうちに、これは違うなと思いました。脳天気なファンタジーに仕立て上げられるような素材ではないと。

――構想を練り直したのは、先に言われたインド社会の実情からですか。

 それもありますけれど、実はインドに赴任した日本人ビジネスマンが、日本の常識の通用しない世界で苦闘していることを知ったからです。

 商習慣も交渉の仕方もまったく違う。国家のあり方や、文化や社会構造の違いも多分に影響しているのだと思います。現地の人や会社と、インドのことを知らない日本の会社との板挟みになったりすることも多いと聞きました。

――そういえば『インドクリスタル』の作中、インドの場面では主人公とその友人、ふたりの日本人以外は、誰一人として信用できる人間がいませんね。