第3回 モルモン教、門外不出の信者記録保管庫 米国ユタ州

 モルモン教(末日聖徒イエス・キリスト教会)が運営する「グラナイトマウンテン記録保管庫」は、ユタ州にある岩山の地下深くに建設されている。一般客や報道関係者の見学が許可されることは滅多にない。非常に高いセキュリティのもと保管されているのは、信者の記録だ。

グラナイトマウンテン保管庫への3カ所ある巨大な入り口のうちの一つ。(c) ASSOCIATEDP RESS

■世界最大の家系記録

 グラナイトマウンテンは米国ユタ州リトルコットンウッド渓谷にある。保管庫にはモルモン教会やその運営、組織構造、歴史に関する膨大な資料を収蔵している。そして、家系情報の蓄積量においてはおそらく世界最大の収蔵量を誇る。35億点を超える家系データを、およそ250万本のマイクロフィルムに記録し保管しているという(毎年約4万本ずつ増えている)。膨大なデータを管理するために、50人のスタッフが系図記録の目録作りから保存とコピーの作業を、さらに2002年からはデータ化の作業を行っている。

■教会の歴史

 教会の歴史は1820年代のニューヨークに始まった。ジョセフ・スミスという男の目の前に神々しい光景が現われ、神から啓示を授けられたという。天使に導かれるままスミスが丘の麓に行ってみると、そこには文字が刻まれた金の板が埋まっていた。1830年、スミスは金板の文言を英語に翻訳したという『モルモン書』を出版し、その教義に基づいた新しい教会を創設した。スミスの書いた原本のうち4分の1強が現存しており、それはグラナイトマウンテン保管庫の奥深くに収められている。
 伝道はすぐに拡大していった。しかし、その独自の信仰(教会初期の一夫多妻制など)をめぐり、移住先の住民との揉め事が絶えなかった。スミスの死後、後継者のブリガム・ヤングは多勢の信徒を率いて大移動を開始し、1847年、現在のソルトレイクシティーにたどり着いた。以来ずっと、ユタ州はモルモン教徒の心のふるさととなっている。

■鉄壁の記録保管施設

 モルモン教の教義は先祖とのつながりを重視する。教会は1890年代から系図記録の収集に着手し、1930年代からは記録をマイクロフィルムに移行する作業が開始された。10年もしないうちにフィルムは10万本を超え、恒久的な保管場所の確保が急務となった。
 いくつもの建設候補地の中から、最終的にリトルコットンウッド渓谷出身の建築家が提案したプランが採用された。グラナイト山の切り立った花崗(かこう)岩の山腹に、トンネルを掘るという計画だ。安全性と、文書保管にとって理想的な温度環境を備えていることが理由だった。
 1960年5月、山頂から250メートルほど下に、全長700メートルのアーチ型のトンネルを掘る工事が始まった。保管庫には3本の大きな通路が通じていて、それに交差する4本のトンネルが掘られた。通路はコンクリートと鋼鉄でおおわれ(噂ではパステルカラーで塗装されているらしい)、6部屋ある保管室内にも鋼鉄が張られた。建設費は200万ドルともいわれる。
 現在、施設の総面積はおよそ6000平方メートルある。巨大な入り口の扉の重量は9~14トンで、核爆発にも耐えられるという。施設をおおう花崗岩の山塊は、核攻撃はもちろん、火災や地震などの自然災害からも保管庫を守っている。これ以上ない厳重な保管庫だ。

■35億点以上の家系データを保管する

 記録室内に並ぶ高さ3メートルの保管キャビネットには膨大な記録資料が収蔵されている。1963年にマイクロフィルムの運び込みが始まり、1965年までに保管庫は本格稼働した。最高の保管状態が維持されるよう、教会は人間が記録資料に接触するのを厳しく制限している。そのため一般公開はされていない。指紋や埃などはすべて、収蔵資料の敵なのだ。2001年からは、記録庫内は常時気温13℃、湿度35%に保たれている。
 2010年、保管されている系図記録のうち、およそ3億点が研究者や一般向けにオンラインで提供されはじめ、情報公開への大きな一歩となった。それでもなお、保管庫のセキュリティはきわめて厳重だ。岩山の奥深く、いったいほかにどんな秘密が埋もれているのだろうか。

保管室にずらりと並んだキャビネットには、世界中から収集された系図記録を収めたマイクロフィルムが保管されている。 (c) Getty Images

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