第10回 ニシオンデンザメと奇跡の機器回収

 このようにして今回のニシオンデンザメの調査では、5匹のサメから貴重な行動データを得ることができた。その意味では大成功といえるが、いっぽうで楽しみにしていたビデオカメラは、それほどうまくいかなかった。

 どんな魚も釣り上げられた直後はいくらか弱っており、放流後しばらくは不自然な行動を見せる。だから当初の予定では、ビデオカメラのタイマー機能を使い、放流した翌日にビデオカメラを起動させるつもりであった。

 ところが今回の新型ビデオカメラはプログラムに不備があり、タイマーが設定できなかった。だから放流時にはビデオカメラを既にスタートさせておくしかなかった。サメ1匹につき6時間ほどのビデオ撮影をしたが、残念ながら――まだすべてを確認したわけではないのだが――活発にエサを追いかけるようなシーンは、とれてなさそうである。

 ただ幸いにして、北極のニシオンデンザメを調査ターゲットにしたこのプロジェクトは、来年も続く。今回得られたデータを解析しつつ、来年こそはタイマーのきちんと備わったビデオカメラを使って、この奇妙なサメが深海でエサを捕るシーンを撮影したいと思う。

調査船の食事。
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つづく

渡辺 佑基(わたなべ・ゆうき)

1978年、岐阜県生まれ。国立極地研究所生物圏研究グループ助教。農学博士。バイオロギングを用いて主に海洋動物の生態を研究している。2010年には南極観測隊に参加し、ペンギンに取り付けたカメラでの撮影に成功。研究論文が米国科学アカデミー紀要に掲載された。2011年、学術分野全般で優れた実績を積み上げた人に贈られる山崎賞を受賞。2014年、『ペンギンが教えてくれた物理のはなし』(河出ブックス)で第68回毎日出版文化賞の自然科学部門を受賞。