第10回 ニシオンデンザメと奇跡の機器回収

 10日ほどかけて、こうした放流実験を4度繰り返し、そのすべてにおいて記録計を回収することができた。ここまでは言うことなしの大成功だ。帰港の日が近づいてきており、次の一回を最後の放流実験とすることにした。とんでもないトラブルに見舞われたのは、そのときだ。

 いつものようにニシオンデンザメを延縄で捕え、記録計を取り付けて放流した。2日後、予定どおり人工衛星発信器から位置情報が送られてきたので、船でそのポイントに向かった。ここまでは何一つ問題はないように思われた。

 ところがポイントに近づき、アンテナを構えていても、地上波の電波がちっとも聞こえてこない。おかしい。念のため、予備の電波受信器に切り替えてみたが、やはり何も聞こえない。脂汗が滲み始めた。最悪の事態である。電波発信器が何かしらの理由で停止してしまっている!

 こうなると残された手段は一つしかない。目視のみで探し出すのだ。人工衛星から送られてくる位置情報には、500m程度のエラーが含まれている。さらに記録計が海流によって、常に流されているのも悩ましい問題だ。このような悪条件のもと、目の前の海のどこかに浮かぶ小さな記録計を目視のみで見つけ出すことが、果たして可能なのだろうか。わからないけれど、とにかくやるしかない。

 船長が船をジグザグに、ゆっくりと走らせてくれた。私たち研究者もイヌイットの船員たちも、全員が甲板に出て、じっと水面を見つめる。北極の冷たい風が吹き付け、体を芯から冷やしていく。

 一度の休憩を挟み、4時間ほどそうしていただろうか。だが何も見つからない。そのうちに日が西に傾き、あたりが薄暗くなってきた。制限時間は迫ってきている。私はほとんど泣き出したい気持ちになっていた。

「Where it is!(そこだ!)」と叫んだのは学生のアマンダだった。私は慌ててそちらの方向を見たが、咄嗟にはどこにあるかわからなかった。ナイジェルが興奮し、「Keep watching!(目を離すな!)」とアマンダに叫ぶ。皆の視点がそちらの方向に集中し、船もそちらの方向に進み始める。

 そこにはたしかに、探し求めていた記録計が――ニシオンデンザメの行動データのいっぱいにつまった記録計が――もうすっかり西に傾いた陽光を反射して、ぷかぷかと浮かんでいた。

 記録計をタモで掬い上げた後、イヌイットのビリーがにっこり笑って「Are you happy?」と尋ねた。でも私の気持ちはhappyという言葉では収まりきらないような気がしたので、「Beyond words(言葉ではとても言えない)」とだけ言った。

アマンダが奇跡を起こしてくれた!
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