第10回 ニシオンデンザメと奇跡の機器回収

 記録計の切り離される当日は、朝からドキドキである。なにしろ首尾よく回収することができれば、世界の誰も持っていない貴重なデータが手に入る。でも逆に、何か予期せぬトラブルが発生し、回収できない事態に陥れば、ざっと百万円ほどの機器と貴重なデータが海の藻屑と消えることになる。

 記録計には人工衛星発信器と地上波の電波発信器の二種類が取り付けてある。人工衛星発信器はインターネットを経由して、おおまかな位置情報(緯度、経度)を知らせてくれる。いっぽう地上波の電波発信器は、アンテナで直接受信することにより、詳細な方角を教えてくれる。つまり人工衛星発信器で大まかな位置を摑んだ後、地上波の電波で絞り込んで探し出すという算段だ。

 私は船内でパソコンに向かい、「更新」ボタンを幾度となくクリックして、位置情報がアップデートされるのを待った。船内のインターネット回線は細く、うまく更新できたり、できなかったりするのでやきもきした。

 だが、あるときぱっと表示が変わり、緯度、経度の数字が更新された。記録計が無事に切り離され、海面に浮かんで人工衛星と交信を始めた証拠だ。まずはほっと一安心。表示された緯度、経度によると、記録計は10キロほど離れた場所に浮かんでいるようだ。

調査海域にはときおり氷山が浮かぶ。
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 船長がすぐに船を動かし、ポイントに直行してくれた。私は地上波を受信するためのアンテナを持って甲板に出、電波が入るのを今か今かと待つ。

 イヤホンを通じて「ピッピッ」という地上波の受信音が最初に聞こえたときの安堵感といったら格別である。それは全ての装置が予定通りに動いてくれた証だ。電波のいちばん強く聞こえる方向に船を動かしていくと、電波はさらに強くなっていった。

 最後は目視だ。目を皿のようにして海面を見つめていると、浮力体の鮮やかなピンク色がぱっと目に飛び込んできた。すぐに船をまわしてもらい、ぷかぷかと浮かぶ記録計をタモで掬い取った。謎の深海ザメ、ニシオンデンザメの行動データが得られた瞬間だった。