第13回 ガラパゴスでのシュモクザメ調査

 あとは母船に帰るだけだが、その前に安全のため、外部と連絡をとっておきたかった。我々が今、どこにいるのかを誰かに知らせておきたいのだが、無線は届かない。最後の手段として、ジェイソンがイリジウム衛星電話でオーストラリアにいる奥さんに電話をかけることにした。

 時刻は正午過ぎ。時差を考えると、オーストラリアは草木も眠る丑三つ時だった。しばらく呼び出し音が続いてから、ベッドからむっくりと起き出してきたであろう奥さんが電話に出た。ジェイソンは奥さんに、我々の現在の緯度経度(太平洋のど真ん中だ)を伝え、正確にメモしてもらう。そしてもしも六時間以内にもう一度連絡がなかったら、大学に連絡をとって欲しいと伝えた。

 奥さんはギョッとしたに違いない。夜中の2時過ぎに突然、エクアドルに出張中の旦那から電話がかかってきて、今から伝える現在位置(緯度経度)を正確にメモして欲しいと言うのだ。さぞかし驚かれたことだろうし、その後はきっと気がかりで眠れなかったことだろう。でも安全のために、これしか方法がなかった。

 私たちはその後、3時間半かけて無事に母船に帰り着いた。往復で280キロもの距離を――しかも太平洋の真ん中を――船外機付きボートでぶっ飛ばしたのは初めての経験だった。何もなかった水平線の向こうから、ぼんやりとダーウィン島の影が見えたときはほっとしたし、母船に到着して船員の皆が笑顔で迎えてくれたときは、心底うれしかった。

 そして何より重要なことに、このようにして、アカシュモクザメ2匹から貴重な行動データを記録することができた。早速パソコンを立ち上げ、データをダウンロードしてみる。文句のつけようのない美しいデータが、2日間にわたって途切れなく記録されていた。それによると、不思議なことに、シュモクザメ2匹は放流後、申し合わせたように同じ方向に泳ぎ始め、たった2日で140キロも離れた地点まで泳ぎ去っていた。

 サメたちは一体何がしたいのだろう? 泳いだ先には何があるのだろう? 素朴な疑問が次々と私の頭の中に浮かぶ。それらの疑問の少なくとも一部の答えは、今回記録されたデータを詳しく解析することによって、おのずと明らかになるはずだ。

 解析を急がなくては、と私は思った。

ガラパゴスゾウガメ。サン・クリストバル島の保護施設で撮影。(撮影:渡辺佑基)
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つづく

渡辺 佑基(わたなべ・ゆうき)

1978年、岐阜県生まれ。国立極地研究所生物圏研究グループ助教。農学博士。バイオロギングを用いて主に海洋動物の生態を研究している。2010年には南極観測隊に参加し、ペンギンに取り付けたカメラでの撮影に成功。研究論文が米国科学アカデミー紀要に掲載された。2011年、学術分野全般で優れた実績を積み上げた人に贈られる山崎賞を受賞。2014年、『ペンギンが教えてくれた物理のはなし』(河出ブックス)で第68回毎日出版文化賞の自然科学部門を受賞。