第13回 ガラパゴスでのシュモクザメ調査

 ガラパゴスに行かないかと誘われたのは、去年の年末のことだった。島の周りに群れるアカシュモクザメの生態を調べ、ついでダーウィンのビーグル号航海に思いをはせてみるのも悪くはないだろうと、盟友でありサメマニアでもあるヤニスがメールをくれた。

 ワインに無関心のフランス料理人がいないように、ガラパゴスに興味のない生物学者はいない。だってそれは自分が人生をかけて取り組んでいる学問の、発祥の地のような場所なのだ。私はほぼ条件反射で「200%絶対確実に行く」と返信メールを出し、乾いた大地をのっそのっそと歩くゾウガメの姿を思い浮かべ、にやりとした。

 半年後、本当にそのときはやってきた。数ある世界遺産の中でも特別な意味を持つガラパゴスは、エクアドル政府によって厳しく管理されており、調査のための許可取得はひどく難しい。地元エクアドル人研究者との親密な連携がなければ、調査を実施することはほぼ不可能だ。

潜水中、アシカが興味津々に近づいてきた。(撮影:渡辺佑基)
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 ではなぜ今回の調査が実現したかというと、私の友人であるタスマニア大学(豪)のジェイソンが、エクアドル人の留学生を指導しており、その留学生の出身大学(エクアドルの首都キトにあるサン・フランシスコ・デ・キト大学)に所属する魚類学者アレックスと知り合った。アレックスはガラパゴスでサメの調査をしているということで、じゃあ一緒にやろうと話が弾み、そこに私やヤニスが加わった。早い話、サトシくんの知り合いのタカシくんが隣町のヒロシくんを紹介してくれたというような、ごく内輪な人間関係が世界規模で展開したわけだ。

 ガラパゴス諸島を形成する島の一つ、サン・クリストバル島の空港に降り立ち、建物の外に出ると、真っ青な空から注がれる強い太陽光が目を射した。なにしろ赤道直下の島である。空気は乾燥していて、周りに広がる草地にはちらほらとサボテンが混じっていた。バスに乗りこみ、海岸に移動する。小さな丘を越え、簡素な四角い家々が立ち並ぶ住宅地を通過すると、コバルトブルーに光る海が見えてきた。

 それは、今までに見たことのない海だった。ペリカンが勢いよく空中からダイブし、鮮やかな水色の足をしたカツオドリが無表情に突っ立っている。砂浜では日光浴を楽しむ人々のすぐ隣で、アシカがぐっすりと眠っている。一部のアシカは道路にまで伸してきて、ハンバーガーレストランの前をウッホウッホと闊歩している。信じられないほどの動物の楽園。

町でアシカがのんびり昼寝をしている。(撮影:渡辺佑基)
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