どんなデータがとれたのか、どきどきしながら確認してみると、パソコンの画面に現れたのは、目を疑うような遊泳パターンだった。ヒラシュモクザメは体を右に60度ほど倒した姿勢で5~10分間ほど泳ぎ、くるりと反転して、今度は左に60度ほど倒した姿勢で5~10分間泳ぐというパターンをずっと繰り返していた(図2)。

図2:遊泳中に記録されたヒラシュモクザメの体の横方向の傾き。(画像提供:渡辺佑基)
図2:遊泳中に記録されたヒラシュモクザメの体の横方向の傾き。(画像提供:渡辺佑基)
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 私たちは最初、何かの間違いかと思った。横に傾いて泳ぐサメなど、見たこともなければ聞いたこともない。疑いの目でデータを見直し、角度を計算するプログラムを再確認したが、どうも結果は正しいように思えた。

 けれどももしかしたら、たまたまこの1匹のサメだけが異常な行動を見せたのかもしれない。考えにくいけれど、その可能性もないとはいえない。そう思った私たちは、調査地を拡大してさらにデータを集めた。ベリーズ(カリブ海に面した中米の国)で別のヒラシュモクザメ1匹に記録計を取り付け、またバハマ(大西洋の島国)で別のヒラシュモクザメ3匹にビデオカメラを取り付けた。

 すると果たせるかな、どのヒラシュモクザメも判で押したように、左右に傾きながら泳いでいた(動画1)。極め付きは水族館である。なんと水族館で飼育されているヒラシュモクザメさえも、よくよく観察すると、ゆらゆらと体を横に倒して泳いでいた(動画2)。

動画1:ヒラシュモクザメに取り付けたビデオカメラの映像。海底を見ると、サメが右に傾いたり左に傾いたりしていることがわかる。(提供:国立極地研究所)
動画2:水族館で横に傾いて泳ぐヒラシュモクザメ。(提供:国立極地研究所)

 ここに至って私たちは確信した。ヒラシュモクザメというサメは、何か必然的な理由のために、いつも体を横に傾けて泳いでいる。それは今まで誰も知らなかった、海の中の確固たる真実だ。

 となると次の目標はもちろん、体を横に傾ける理由を解明することだ。なぜヒラシュモクザメは、そんな奇妙な泳ぎ方をするのだろう。そしてなぜ他のサメは、そうしないのだろう。

 私たちが注目したのは、ヒラシュモクザメの異常ともいえるくらいに長く発達した背びれである(図1)。このサメを初めて見た人は誰しも、ぬっと突き出した背びれの長さに驚く。実際、私たちの調べた限り、胸びれよりも背びれが長いサメの仲間は、世界で唯一、ヒラシュモクザメしかいない。そして長い背びれが水中で横に倒されるということは、何かしら流体力学的な現象が起きていると考えるのが自然だ。

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