第6回 アザラシの風変わりな休息法

 バイカルアザラシは深さにして30~300m、時間にして5~15分ほどの潜水を昼夜わかたず繰り返している。深度のデータをグラフに表示すると、1回の潜水はアルファベットの「U」に似た形で表される。

 ところが、たまに「U」ではなく、「V」の字にも似た、下に尖った三角の形をした不思議な潜水が含まれていることに気付いた。しかもその特殊な潜水は、5回以上連続して行われることが多いようだった。これは一体なんだろう? パソコン上で拡大して、詳細に調べる。

「V」潜水の前半、つまりアザラシが水面から潜り始めて深みへと潜っていく間、遊泳スピードの記録はゼロに近かった。

 これは怪しい、と直感的に思った。だって深度は変化しているのだから、スピードがゼロであるはずがない。スピードが本当にゼロなのではなく、スピードを計測するための、水流を感知するプロペラがうまく回転しなかったと考えるのが妥当だろう。もしそうだとすれば、この結果の意味するところは、アザラシの体がプロペラの向いている前方とは違う方向に動いていたということである。

 さらに加速度センサーの記録を見てみる。加速度というのは、動物の体の動きの度合いを示す項目であり、アザラシが左右に足ヒレを振って泳げば、それに伴う体の振動が記録される。

 加速度の記録によると、アザラシは「V」潜水の前半、足ヒレの動きを完全に停止していることがわかった。

 つまりアザラシは潜水を始めるや否や、足ヒレの動きをぴたりと止め、体の向いた方向とは別の方向に、ふらふらと沈んでいた。そう、アザラシは潜りながら休んでいた。

V字型は休息潜水だった。(画像提供:渡辺佑基)
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 そして潜水の最深部に到達すると、はっと気付いたかのように再び足ヒレを振り始め、能動的に泳いで水面に浮上していた。水面で何度か呼吸をし、体内に酸素を補給したのちに、再び休息のための潜水を開始していた。

 それだけでなく、バイカルアザラシは水面にぷかぷかと数時間以上にもわたって浮いていることもあった。つまりバイカルアザラシは上陸場のひどく限られた夏のバイカル湖で、「休息潜水」と「水面滞在」の2通りの方法で、体を休めていることが明らかになった。

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