第11回 発見! 渡り鳥の法則

 興味深い例外は、南極で子育てをするナンキョクオオトウゾクカモメだ。

アデリーペンギンの卵をくわえたナンキョクオオトウゾクカモメ。(撮影:渡辺佑基)
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 この鳥は、体重1キロほどの比較的大きな体をしているのにもかかわらず、赤道をはるかに越えて、キョクアジサシと同程度の大移動をしていた。体重の違いを考慮すると、ナンキョクオオトウゾクカモメこそがキョクアジサシを上回る「渡り鳥のチャンピオン」であることがわかった(図A)。

 いっぽう、自力で羽ばたくことなく、上昇気流や風を利用してふわりと滑翔する鳥の場合、渡りの距離と体重とは無関係だった(図B)。体重500グラム程度の小さなミズナギドリも、体重9キロもある大きなワタリアホウドリも、同じくらいの大移動をしていた。

図:羽ばたき飛行の鳥(A)と滑翔の鳥(B)における渡りの距離と体重との関係。(A)の赤の矢印はナンキョクオオトウゾクカモメを、青の矢印はキョクアジサシをそれぞれ表している。
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 これもまた飛行の力学理論と一致している。滑翔する鳥は上昇気流や風という自然現象からエネルギーを取り出しているので、鳥自身の消耗するエネルギーは最小限で済む。体重にかかわらずエネルギーの負担が少ないので、滑翔する鳥は長距離を移動できることがわかった。

 本研究により、多種多様な鳥による複雑な渡りのパターンがシンプルなエネルギー論で大ざっぱに説明できることが明らかになった。キョクアジサシが地球を縦断し、ツルが近隣の国までしか飛ばないのは、体の大きさが違うからだ。ツルと同じくらい大きなアホウドリやコンドルが地球を横断(あるいは縦断)するのは、飛行様式が違うからだ。大量のデータから見えてきたものは、物理法則に縛られて生きている渡り鳥たちの真実の姿だった。

 最後に、本研究を終えた今の感想。この研究で私のしたことといえば、結局のところ、研究室にこもり、パソコンに向かい、文献を読んだだけだ。100%純粋なデスクワーク。でも私は不思議と、千里の大冒険を終えたような充実感に包まれている。それはなぜかと考えてみれば、鳥の移動経路と照らし合わせながら、Google Earth上で世界中を旅したからだ。南米のジャングルにも、アフリカの砂漠地帯も行ったし、政情不安定のシリアにさえ入った。さらに比喩的にいえば、大量のデータの海を泳ぎまわったし、大量のデータの山を越えた。どこにも行かなかったけれど、たしかにいろんなものを見、いろんな経験をした大冒険だったと今は実感している。

つづく

論文:Yuuki Y. Watanabe (2016) Flight mode affects allometry of migration range in birds. Ecology Letters

渡辺 佑基(わたなべ・ゆうき)

1978年、岐阜県生まれ。国立極地研究所生物圏研究グループ助教。農学博士。バイオロギングを用いて主に海洋動物の生態を研究している。2010年には南極観測隊に参加し、ペンギンに取り付けたカメラでの撮影に成功。研究論文が米国科学アカデミー紀要に掲載された。2011年、学術分野全般で優れた実績を積み上げた人に贈られる山崎賞を受賞。2014年、『ペンギンが教えてくれた物理のはなし』(河出ブックス)で第68回毎日出版文化賞の自然科学部門を受賞。