第11回 発見! 渡り鳥の法則

 ただ問題は、全部で何種くらいのデータが文献として蓄積されているのか、まるで予想がつかなかったことだ。せいぜい50種くらいの気もしたし、いや100種はあるだろうという気もした。でもとにかくやってみるしかない。検索して論文に目を通し、位置をチェックして距離を測定する――そのような単純作業をコツコツと続けた。慣れてくると目がスキャナーのようになり、論文から必要な情報をすばやく探し出せるようになってきた。

 3週間ほどで100種の大台を突破したが、それでもまだ、条件を変えて検索するたびに新しい論文が見つかった。予想以上の量だ。終わりの見えない膨大な作業を始めてしまったことにいまさら気付き、焦りが出てくる。でももちろんやめるわけにはいかない。こうなったら意地だ。余計なことは考えず、目をスキャナーにして、新しい情報を探し続けた。

 結局、1カ月半ほどかけて、計196種という膨大な鳥のデータを集めた。

渡り鳥の夏期の子育ての場所(赤の丸印)と越冬中に最も遠くまで行った場所(青の丸印)。2点間は黄緑色の線(羽ばたき飛行の鳥)または水色の線(滑翔する鳥)で結んである。
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今回チェックした論文を積み上げると、ホッキョクグマの背丈をはるかに越えた。(撮影:渡辺佑基)
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 作業がすべて終わったときは心からほっとしたし、二度とは繰り返せないと思った。チェックした論文は積み上げると20センチくらいになった。

 さて、それらのデータを統合し、詳しく解析したところ、予想以上に明快でエキサイティングな結果を得ることができた。多種多様な渡り鳥の移動距離は、シンプルな二つの要因――体重と飛行様式(羽ばたき飛行あるいは滑翔)――によって決まっていることがわかった。

 渡り鳥は飛行様式によって大きく二つのグループにわけることができる。バサバサと自力で羽ばたいて飛ぶ鳥と、上昇気流や風を利用してふわりと滑翔する鳥だ。

 自力で羽ばたいて飛ぶ鳥の場合、体重の重い鳥ほど、渡りの距離が短くなる傾向があった(次ページ図A)。ある種のモズやアジサシなどの小さな鳥は、北半球から南半球に渡るような大スケールの移動を見せたが、ツル、ガン、ハクチョウのような大きな鳥は、赤道をまたぐことはなかった。

 これは飛行の力学理論と一致している。羽ばたき飛行に必要なエネルギーは、体重が増えるにつれて急速に増大する。体重の重い鳥ほど、飛行中のエネルギーの消耗が大きく、そのため渡りの距離が短くなることが明らかになった。