第11回 発見! 渡り鳥の法則

海上を滑翔するワタリアホウドリ。(撮影:渡辺佑基)
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 約200種の渡り鳥の移動パターンを比較し、渡りの距離がどのような要因によって決まるのかを明らかにした私の最新の論文が「Ecology Letters」誌に掲載された。「Ecology Letters」誌といえば、数ある生態学の科学雑誌の中でも断トツのインパクトを持つトップジャーナルだ。生態学者の集まる学会では、初対面の相手に「つまらない論文ですけど」と謙遜を装って、ペラリと「Ecology Letters」誌の論文の別刷りを渡すのが最上の自己紹介とされている。それはともかく、今回の論文は私にとって、何度も泥沼にはまり込みそうになった労作なので、その内容を今このような形で紹介できることを、心からうれしく思う。

 さて、今回のテーマは渡り鳥である。世界中のおびただしい種類の鳥が、毎年、季節に合わせて地球上を移動している。夏の間、高緯度地域で子育てをし、冬の間は暖かい低緯度地域で過ごすというのが一般的なパターンだ。日本で夏に子育てをするツバメは、冬は緯度の低い東南アジアで過ごすし、ぎゃくに日本に冬に飛来するハクチョウは、夏は緯度の高いシベリアなどで子育てをする。

 しかし、渡りの距離は鳥によって驚くほどまちまちだ。キョクアジサシのように南極と北極とを往復する巨大スケールの渡り鳥もいれば、ある種のツルのように中国の南部だけで渡りのサイクルを完結させる鳥もいる。

 なぜ、同じ動機に駆り立てられた同じ渡り鳥なのに、渡りの距離はこれほどまちまちなのだろう。この素朴な疑問から、本研究の長いプロセスは始まった。

 近年、鳥の体に小型の記録計や発信器を取り付けるバイオロギングの技術が急速に発展し、普及している。そのおかげで、ムシクイのような手乗りサイズの小鳥から、体重10キロを超えるオオハクチョウに至るまで、多種多様な渡り鳥に機器が取り付けられ、1年間の移動パターンが計測されている。

 これは宝の山だ、と私はふと気がついた。多くの研究者は、自分の注目する特定の鳥の渡りを計測し、報告することに力を割いている。そうではなく、多種多様な渡り鳥の追跡データを1カ所に集め、同じ土俵にのせ、ざっくりと比較すれば、共通するパターンや背景にあるメカニズムを探ることができるのではないか。なぜ渡りの距離が鳥によってまちまちなのかという素朴な疑問にも、答えを見出すことができるのではないか。

 そう思った私は、暇を見つけて軽い気持ちで始めてみた。鳥の渡りを計測した論文をインターネットで検索し、印刷して目を通す。夏期の子育ての場所と、越冬期間中に最も遠くまで行った場所を確認する。Google Earthを使い、それら2点間の直線距離を計測すれば、それがその種にとっての渡りの距離だ。うん、いい感じ。この作業を繰り返し、種数を増やしていけばいい。