第5回 伏兵アカマンボウの逆襲

 アカマンボウの説明に入る前に、以前から知られていた、マグロ類やホホジロザメが体を温める仕組みから見ていこう。

 マグロ類やホホジロザメは尾びれをひっきりなしに振って泳ぎ続けるが、尾びれを動かす原動力は、体幹部の筋肉の絶え間ない収縮運動である。そしてその際に発生した熱を筋肉中にため込むことによって、これらの魚は高い体温を維持している。たとえるなら冬の寒空の下でマラソンを続けることによって、体を温めているようなものだ。

 けれどもマグロ類やホホジロザメ以外にも、尾びれを振って泳ぎ続ける魚はたくさんいる。ブリやサバ、サケなどの仲間がそうだ。なぜ、これらの魚は体温が高くないのだろうか。

 その答えの鍵はエラ呼吸にある。一般に動物の体内では、体中に張り巡らされた血管を流れる血液によって熱が運搬されている。ところが魚の場合、体内をめぐる血液は、必ずエラを通過してまわりの水から酸素を取り込む。エラでは血液とまわりの水とが近接するので(そうでないと酸素が取り込めない)、その際に血液にため込んだ熱は水中に逃げてしまう。つまりブリやサバがいくら連続的に尾びれを振り、筋肉の運動によって熱を発生させても、その熱は発生するそばから血液とともに筋肉の外に運ばれ、エラに到達した時点で霧散してしまう。

 マグロ類やホホジロザメももちろんエラ呼吸をするが、血液が体内を1周しても筋肉中に熱が保持されるような、特殊な体の仕組みを持っている。それが対向流熱交換器(counter-current heat exchanger)と呼ばれる血管の配置だ。こんなふうに専門用語を出すと、なんだか難しそうに聞こえてしまうが、その原理はすこぶる単純なので、安心して聞いてほしい。

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