第5回 伏兵アカマンボウの逆襲
アカマンボウは極域を除く世界中の海に幅広く分布している魚である。なるほど名前の通り、マンボウにいっけん似た平たい姿かたちをしているが、マンボウとは別のグループに分類され、よく見れば尾びれの形状などが全然違う。私は過去にマンボウを研究していたことがあり、飽きるほどマンボウを見てきたので、アカマンボウに対しては「どこがマンボウ?」と言いたくなる。
ともあれアカマンボウは身がおいしく、味覚的にも視覚的にも身がマグロに似ていることから、一部ではマグロの代替品としても注目されているらしい。これはたぶん偶然ではなく、今回説明するように、マグロとアカマンボウとは「高い体温」という架け橋で繋がっているからだと私は考えている。
さて、今回の『Science』の論文は、アカマンボウが他の普通の魚とは違い、まわりの水温よりも5℃ほど高い体温を保っているというものであった。
なるほど魚は変温動物であり、その体温はまわりの水温と常に等しいという「常識」からすれば、これは大発見に聞こえるかもしれない。けれども前々回述べたように、マグロ類やホホジロザメが高い体温を保っていることは、ずいぶん前から知られていた。それにアカマンボウが高い体温を備えていることも、じつは2009年に一篇の論文で報告されており、周知の事実とまではいえないにせよ、少なくとも私を含む一部の研究者には知られていた。
さらに私に言わせてもらえれば、水温よりも5℃高いという体温の値は、さほど驚きではない。ホホジロザメの近縁種であるネズミザメの場合、温かい体温と冷たい水温との差は、ときには20℃にもなる。発熱の度合いで比べるならは、アカマンボウはネズミザメの足元にも及ばない。
ではなぜアカマンボウの高い体温が常識を覆す大発見といえるのか。それは、この魚がマグロ類やホホジロザメとは違う体の仕組みをもち、それによって、魚には不可能だと思われていた「温かい心臓」を獲得していたからである。